国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「百家争鳴」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2018-05-22 11:44

北朝鮮による拉致問題の逆利用

倉西 雅子  政治学者
 南北首脳会談に続き米朝首脳会談の開催も決定された頃から、日本国内からも、日朝首脳会談を勧める意見が散見されるようになりました。この流れに乗せられてか、安倍首相も同会談に積極的な意向を表明するに至っています。しかも、拉致問題解決を最優先の議題に据えたいようなのです。こうした日本側の動きを見越して、北朝鮮の金正恩委員長からも対日交渉の扉は開かれているとするメッセージが発せられているようです。しかしながら、この流れ、拉致問題を巧妙に利用した一種の詐欺ではないかと思うのです。何故ならば、日本人拉致事件とは、紛れもない北朝鮮による国家犯罪であり、拉致被害者の解放は、当然のことであるからです。国内法である刑法においては略取又は誘拐の罪に当たり、加害者は厳正なる裁判の下で刑罰を受ける立場にあります。

 ところが、マスメディアの報道ぶりを見ますと、拉致事件の解決=平和=北朝鮮礼賛の三段論法的な構図が演出されており、その犯罪性が隠蔽されているかのようです。しかも、核・ミサイル問題の解決とは切り離した見解も多く、日朝交渉に限定すれば、金委員長の‘英断’によって拉致被害者の帰国が実現すれば、直ぐにでも日本国側の対北経済制裁が解除され、日朝国交正常化まで進展するかのような印象を与えているのです。北朝鮮の策略とは、核・ミサイル問題は脇に置き、拉致事件を前面に打ち出すことで、先ずは日本国政府を交渉の場に引出し、現行の経済制裁の緩和や多額の経済協力を伴う日朝国交正常化等を条件に拉致被害者を帰国させるというものなのでしょう。その際には、生き別れた被害者家族の再会という誰もの涙を誘う“感動的なシーン”が演出され、金委員長を勇気ある‘解放者’として讃えるものと推測されます。その真の姿が刑務所に行くべき犯罪者であるにも拘わらず…。

 そして、この点に関しては、安倍首相も、拉致事件の解決を最優先とし、かの平壌宣言に基づく日朝国交正常化に言及しているのですから、北朝鮮の巧妙な対日懐柔作戦に騙されているとしか言いようがないのです。この流れは、2002年の小泉元首相による訪朝時における“サプライズ外交”と類似しています。日本国政府は、またもや北朝鮮が仕掛けた同じ手に騙されるのでしょうか。

 “悪魔は、善から悪を引き出す”とされていますが、北朝鮮の手法は、拉致問題が人道問題であることを逆手にとった一種の詐欺のように思えます。拉致事件の解決に対しては、人道問題であるだけに心理的に反対意見の表明が憚られ、北朝鮮による詐欺を見抜いての冷静、かつ、合理的な批判であっても、マスメディア等から非人道的な見解として手厳しく叩かれかねません。国家犯罪が人道の名によって“善行”にすり替えられ、しかもその先には、日本国からの莫大な経済支援という詐取が潜んでいるのです(経済支援を受けた後に、日米に向けた核開発が再開される可能性もある)。このように考えますと、マスメディアによる“バスに乗り遅れるな”式の日朝交渉の薦めに煽られることなく、日本国政府も国民も、冷静に北朝鮮の悪を見据えるべきではないかと思うのです。
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『百家争鳴』から他のe-論壇『百花斉放』または『議論百出』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
東アジア共同体評議会