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2018-05-08 11:00

北朝鮮は核を放棄しない

加藤 成一  元弁護士
 4月27日軍事境界線のある板門店で韓国文在寅大統領と北朝鮮金正恩労働党委員長との間で「南北首脳会談」が行われ、両首脳は、「完全な非核化を通じて核のない朝鮮半島を実現する共同の目標を確認した」とする「板門店宣言」に署名した。しかし、この「宣言」によって朝鮮半島の「非核化」が実現する保証はない。1991年12月には南北間で「南北非核化共同宣言」がなされ、さらに、2005年9月には6か国協議で「朝鮮半島非核化共同声明」が合意されたが、「非核化」は実現していない。金正恩委員長は、3月5日北朝鮮を訪問した韓国大統領特使団に対し朝鮮半島非核化の意思を示し、「北朝鮮への軍事的脅威が解消され、体制の安全が保証されれば、核を保有する理由がない」旨述べたとされるが、すべて条件付きの「非核化」であるうえ、その条件である「軍事的脅威の解消」や「体制の保証」は、北朝鮮側の一方的な判断如何にかかっている。

 北朝鮮側は、「非核化」のための「軍事的脅威の解消」や「体制の保証」の条件として、早晩アメリカに対して、米朝平和友好条約締結、米韓合同軍事演習の廃止、在韓米軍の全面撤退、高高度防衛ミサイル(THAAD)の撤去、米韓相互防衛条約の解消、さらには朝鮮半島統一の実現などの諸条件を要求してくる可能性がある。すなわち、彼らのいう、アメリカによる一切の北朝鮮敵視政策の撤廃である。「非核化」のための「軍事的脅威の解消」や「体制の保証」の条件が実現したかどうかがすべて北朝鮮側の一方的な判断如何に依存している以上、いまだ諸条件が実現していないと主張して「非核化」を拒否することも可能である。そのうえ、北朝鮮が核を保有する真の目的が、単にアメリカに対する「体制の保証」だけではなく、朝鮮半島の軍事的統一、韓国及び日本に対する核による軍事的優位性の確保、中国に対する独立性の確保、国際社会に対する発言力の確保、国内統治上の必要性などをも含むとすれば、なおさら北朝鮮による「非核化」の可能性はない。

 国内統治上の必要性については、北朝鮮は2012年4月の憲法修正で自らを「核保有国」と憲法上明記しているから、北朝鮮が「核保有国」であり続けることは、金正恩委員長にとっては国内統治の正統性の根拠であり、「非核化」はその根拠を失うことを意味する。したがって、この点からしても「非核化」の可能性はない。仮に、米朝首脳会談において、金正恩委員長がトランプ大統領から期限を切った「非核化」を迫られた場合は、共同声明では「非核化」を約束しても、実際にはその履行を引き延ばしたり、あとから条件を付けて約束を反故にするなど、「偽装非核化」の合意をする可能性がある。

 北朝鮮にとっては、核・ミサイル開発の完成は、金日成、金正日の時代から長年にわたって、経済制裁などあらゆる犠牲を払い邁進してきた最優先の国策であり国家目標である。北朝鮮にとっての核は、6回に及ぶ核実験と多数回のミサイル発射実験の結果、今やアメリカにも脅威を与え得るいわば「伝家の宝刀」でもある。だからこそ憲法を修正し「核保有国」である旨を憲法上明記したのである。このように、北朝鮮がようやく獲得した「核保有国」としての地位をたやすく放棄することは到底あり得ないのであり、アメリカを含む6か国協議による「朝鮮半島非核化共同声明」の合意さえ反故にしてきた過去の経緯を考えれば、今回の金正恩委員長のいう朝鮮半島の「非核化」に限ってこれを信用すべき特段の理由はない、と言えよう。
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