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2018-04-03 21:44

(連載1)中朝首脳会談の衝撃と金正恩の揺さぶり

斎藤 直樹  山梨県立大学教授
 5月までに開催されるとみられる米朝首脳会談の結果如何で今後の朝鮮半島情勢が大きく変更する可能性がある。軍事的緊張が低減する可能性もあるし、反対に緊張が再び高まる恐れもある。したがって、首脳会談が決裂するといった事態は憂慮される。とは言え、2018年元旦の「新年の辞」の中で執務室の机の上には「核のボタン」が置かれていると豪語したばかりの金正恩朝鮮労働党委員長が3月になり突然、非核化の意思表示を行ったとしても額面通りに受け入れることはできようか。しかもトランプ大統領が考える非核化とは「完全で検証可能かつ不可逆的な核廃棄(CVID)」を直ちに実行に移すというものである。残念ながら、トランプの求めるであろう非核化に応じる意思は金正恩には毛頭ないと考えられる。こうしたこともあり、首脳会談は安易に楽観できないという見解が飛び交っている。トランプにとって首脳会談の狙いが金正恩の真意を確かめることにあるとすれば、金正恩が真摯に非核化に応じる意思はないと判断すれば、会談の席を立ち去ることもやぶさかでないであろう。他方、金正恩にとってはそうはいかないところである。

 もし首脳会談が決裂に終わるという事態ともなれば、経済制裁による圧力は一段と増し、核・ミサイル関連施設への米軍による空爆も現実味を帯びてくるからである。そうしたことから、何としても首脳会談で一定の成果をあげるために金正恩が躍起となることが予想された。サプライズを得意とする金正恩がどういった策に打って出るか注目された。金正恩が講じた策は、習近平中国国家主席との中朝首脳会談であった。何の前触れもなく3月25日から28日まで金正恩は訪中した。世界に衝撃が走った。金正恩が急遽、習近平に中朝首脳会談を開催したいと申し出た背景には幾つかの事由があろう。トランプがここにきてティラーソン国務長官に変えてポンテオ、マクマスター安全保障担当大統領補佐官に変えてボルトンという名立たる対北朝鮮強硬派を外交のトップに据えたことが大きい。ポンテオとボルトンがトランプを取り囲む格好での米朝首脳会談ともなれば、金正恩は非核化への取組みを巡り一気に押し込まれかねない。この結果、金正恩が持論とする段階的かつ同時並行的な非核化への取組み、すなわち非核化を数段階に区切り段階ごとに北朝鮮による履行と米国による見返りの提供を行うという同時並行的な実施方法は真っ向から棄却され、トランプに「完全で検証可能かつ不可逆的な核廃棄」を突き付けられることは間違いなく、その場で会談は行き詰まりかねない。

 会談が決裂することがあれば、対北朝鮮経済制裁が一層強化されまた空爆に向けた準備が進みかねない。金正恩からみて、非核化への取組みにおいてトランプによる圧力に曝され最終的にトランプに同調するとみられる文在演大統領では到底、物足りない。強力な後ろ盾が必要であるとみた金正恩にとって習近平は格好の人物である。そこで中朝首脳会談を開催し習近平から金正恩の考える非核化への取組みに理解を頂き、これを梃子にして米朝首脳会談において北朝鮮の非核化への取組みを主張したいところである。そうなれば、トランプとしても首脳会談決裂という形で金正恩を突き放せなくなる可能性が出てくるとの読みが金正恩を動かしたと推察できよう。北朝鮮へ与える影響力において圧倒的な存在感を持っていたのは中国である。このことは中国が金正恩に対する梃子を持つという表現でしばしば示されてきた。北朝鮮の貿易総額において中国が9割以上を占めることに加え中国産出石油が北朝鮮へ供給される石油総量の9割以上を占めるという事実を勘案すると、習正恩指導部の決断如何で金正恩指導部は一気に追い詰められかねない。

 習近平指導部は近年、金正恩指導部に対する姿勢を次第に硬化させてきた。その最大の事由は金正恩指導部がここ数年、対米核攻撃能力の獲得を目論み核・ミサイル開発に向けて突き進んだことにある。特に中朝国境に近接した豊渓里(プンゲリ)での度重なる核実験は中国東北地方に与えかねない環境上の影響もあり習近平指導部は苛立ちを隠せなかった。金正恩指導部が対米核攻撃能力の獲得に向けて猛進しこれに対しトランプ政権がそうはさせじと反駁する中で、2017年4月上旬に米中首脳会談が開催された。首脳会談の席上、第6回核実験に向けて準備を進めていた金正恩を制止すべくトランプから北朝鮮へ圧力を行使するよう習近平は要請された。案の定、4月中の核実験の強行を焦る金正恩は習近平に核実験の予定を通知すると、習近平は石油の供給制限の脅しを突き付け金正恩に核実験を自粛するよう促した。この結果、4月中の核実験を金正恩は不承不承ながらも見送ったという経緯がある。(つづく)
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