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2018-03-27 10:03

(連載2)米朝首脳会談での金正恩の狙いと落としどころ

斎藤 直樹  山梨県立大学教授
 第一段階として非核化の対象となる核関連施設や核関連活動の申告を金正恩が行う。続いて第二段階として核関連施設や核関連活動の凍結の履行に移る。第三段階として核関連施設の無能力化を実施することにより非核化を完遂する。6国協議でお馴染みの「言葉対言葉」、「行動対行動」の原則に従い、これらの段階ごとに北朝鮮が行う非核化に向けた措置の履行と並行しそれに相応する米国による見返りの提供を金正恩が要求するとみられる。金正恩の見返りの要求にはどのようなものがあろうか。日一日と厳しさを増す経済制裁に窮している金正恩指導部にとって経済制裁の解除や緩和がとにもかくにも最大の優先事項であろう。北朝鮮国民の多くが飢餓の危機に瀕していると人道的観点から経済制裁の全的解除、少なくとも一部解除をトランプに配慮して頂きたいと金正恩は求めると考えられる。これと並行して、膨大な量の食糧や燃料の支援を金正恩は要求したいところであろう。また金正恩は1953年7の朝鮮戦争休戦協定に替わる米朝平和協定の締結を求めてくることも予想される。

 米朝平和協定の締結に続き米朝国交正常化を金正恩は果たしたいところであろう。すなわち、金正恩の狙いは長期にわたる米朝核交渉にトランプを引き摺り込ことにあろう。この結果、かりに非核化が完遂することがあるとしても数年以上先のことになる可能性もある。それまで米国は北朝鮮への関与を続けなければならない。言葉を変えると、米国は今後長々と金正恩体制の面倒をみなければならない可能性がある。こうした手法は1990年代前半の米朝高官協議において金日成指導部が、2000年代の6ヵ国協議において金正日指導部が執拗に繰り広げた手法を想起させる。金日成や金正日が繰り広げた手法に金正恩が出てくるのは目に見えている。すなわち、米朝核交渉が始まるとすれば同交渉において各種の争点を可能な限り細分化し、その一つ一つにおいて細々と持論を展開することにより散々、遅延工作を続け、その間に膨大な量の支援を頂くと共に時間をできるだけ稼ぎ核兵器開発を続けるというものである。クリントン、ブッシュ、オバマの三代の米政権が陥った苦い経験を踏まえ、そうしたからくりがあることをトランプが理解しなければ、金正恩がめぐらすであろう術策にトランプもはまる可能性がある。

 反対に、トランプが警戒心を怠らず金正恩に首尾よく対応するのであれば、長々と続きかねない遅延工作ともとれる術策に乗ってしまうということはないと推察される。他方、トランプはどのように対応するであろうか。金正恩の主張に十分に耳を傾けた上で一気にたたみかけるかのように持論を展開するのがトランプの論法ではなかろうか。過去の米朝枠組み合意や6ヵ国協議における取引をよしとしないトランプは非核化を数段階に区切り段階ごとに北朝鮮による履行と米国による見返りの提供を行うという同時並行的な実施方法に懐疑的であると考えられる。長々とした非核化の履行は許容できないとトランプは断じ、単刀直入に「完全で検証可能かつ不可逆的な核放棄」に応ずることを金正恩に要求すると共に非核化を完遂して初めて見返りを提供する用意があるとし、それまでは経済制裁の実施に重きを置いた圧力行使を堅持すると言明するのではなかろうか。このように非核化の実施方法に対する両首脳の考え方が全く異なることに留意する必要があろう。「完全で検証可能かつ不可逆的な核放棄」を金正恩が受け入れるとは考え難い。

 そうなれば、首脳会談での議論は多かれ少なかれ平行線を辿ることが予想される。金正恩の真意を確かめることにトランプの意思と意図があるとすればそれでよいかもしれないが、それでは首脳会談は非核化の実施方法を巡り鋭く対立したまま終わることになりかねない。金正恩の真意がつかめたとして会談をトランプは立ち去るのか。それとも、首脳会談での主張の隔たりを踏まえこれ以降両外交団による米朝核交渉に委ねるとトランプは判断するのか。とは言え、それでは長期にわたる交渉になることを意味し過去の交渉の二の舞となりかねない可能性が高い。トランプが3月10日に首脳会談について「世界にとって最高の合意ができるかもしれない」とした一方で、「早々に立ち去るかもしれない」と発言した通りであろう。金正恩の真意を確かめたトランプがどのように首脳会談を締めくくるかにその成否はかかっているのではないであろうか。(おわり)
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