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2018-03-09 04:09

(連載1)「日中関係は改善」との宣伝について

加藤 隆則  汕頭大学長江新聞與伝播学院教授
 河野外相の訪中、そして年内の李克強首相の訪日予定と政治スケジュールが続き、日中の両国政府からはさかんに「改善」のアピールが行われている。メディアはそのストーリーを安易に信じ込み、政治宣伝の片棒を担ぐ。これまで何度も繰り返されてきた茶番劇だが、記者も担当がコロコロ変わっているので、過去記事をなぞる金太郎あめのような報道が垂れ流される。膨大な公共財のロスである。もっとも、報道機関に負わされてきた公共財としての責任はすでに希薄化し、今やインターネットを中心とする新たな言論空間において、いかに個々人が公共の場を築いていくかが問われている。各自が目を覚まさなければ、ネット空間は本来持っていた自由や平等、公開の価値を失い、大半の人々は足場を奪われ、ごく一部の権力と利益に操られる漂泊の民となるしかない。身体性を動員した想像力が試される。

 2012年秋、尖閣諸島の領有権をめぐる紛争で、メディアにおいては「日中関係は戦後最悪」だとさえ言われた。政治の失策が招いた衝突に、庶民が動員され、多くの人たちが心身ともに傷ついた。その責任について、政治家は謝罪もしていないし、釈明さえも拒んでいる。この間、日本メディアは習近平国家主席の表情をうかがう読唇術に夢中で、「怒った」「笑った」とあきれるような分析を行ってきた。いきなり「改善」と言われても、こちらは戸惑うばかりだ。なにがどう改善され、個々人のレベルにおいてどのような影響があるのか。まったくの説明がないのだから。

 政治のご都合主義を物語る端的な例を一つ示そう。2014年11月、APEC(アジア太平洋経済協力会議)首脳会議出席のために北京を訪問した安倍首相と、習近平国家主席との日中首脳会談が2年半ぶりに行われた。そのお膳立てとして、両国政府が水面下で尖閣問題を中心とする4項目の合意文書を交わし、首脳会談は本題に言及することを避けた。姑息な知恵によって実現したものだ。同行の日本記者団は、対中外交の「成功」を迷いもなく報じた。その直後、安倍首相は衆院解散を決めた。対中関係改善を求める財界を意識した露骨な選挙対策だった。

 4項目で最も重要な領土問題は、「双方は釣魚島(尖閣諸島)など東シナ海海域で近年来出現している緊張情勢をめぐり、異なる主張が存在することを認め……」とある。役人が練り上げた玉虫色の表現について、いったいどれだけの両国国民が理解しているだろうか。民意不在、政治都合の解決は、韓国の慰安婦問題が示すように、将来にもっと深い禍根を残すことになる。(つづく)
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