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2018-03-07 08:25

(連載2)北朝鮮核・ミサイル危機の破滅的結末の展望

斎藤 直樹  山梨県立大学教授
 時機を逸することがあれば、北朝鮮領域の大部分が米韓連合軍によって占領されかねないと習近平指導部が判断すれば、米韓連合軍の北進を見計らい中国人民解放軍の軍事介入に踏み切る可能性が高い。米中間で軍事介入についての基本合意がないのであれば、北朝鮮領内において米韓連合軍と中国人民解放軍が出くわす可能性がある。もしも米中間で武力衝突が起きるようなことがあれば、戦闘は一気に全面的な戦闘へと拡大しかねないことが危惧される。この間、北朝鮮領内のありとあらゆる軍事目標に対し米軍による猛烈な空爆が敢行されることが予想される。他方、戦闘での圧倒的劣勢を覆すことができるものが韓国や日本への核ミサイル攻撃であると金正恩が認識しているであろう。核ミサイルの使用が米軍による大規模な核報復を招くことは必至であろうことから、核ミサイルの使用を戦闘の最終段階まで温存したいというのが金正恩の基本戦略であろう。とは言え、金正恩の目算が狂いかねない可能性がある。米軍による激しい空爆が続く中で地上の軍事施設や戦力の大部分が壊滅的打撃を浴びることがあれば、残存戦力は地下坑道に秘匿した戦力となりかねない。その中には、金正恩にとって虎の子とも言うべき移動式発射台搭載の核弾頭搭載弾道ミサイルがあろう。

 しかし、米軍が地下坑道さえ破壊する地中貫通爆弾などを投下するという事態は、金正恩を一気に追い詰めるとも限らない。移動式核ミサイル戦力が米軍の空爆により破壊される可能性が高いと判断すれば、戦闘の早い時点で核ミサイルを使用することを金正恩が決断する可能性があるからである。同戦力の主たる目標は韓国や日本となりかねない。スカッド・ミサイルやノドン・ミサイルに搭載可能な核弾頭が実用化されているかどうかは必ずしも明らかではない。これらが実用化されている場合が問題である。このとき体制の瓦解を覚悟して金正恩が核ミサイルの使用に踏み切る可能性がある。核ミサイル攻撃に伴う被害規模は想定不可能である。飛来する核ミサイルを迎撃ミサイルが確実に迎撃できるであろうか。韓国や日本の大都市に向け核ミサイルが発射され、これに対し迎撃ミサイルが核ミサイルを討ち漏らし核弾頭が大都市に着弾するといった最悪の展望が現実となれば、想定できない程の大規模な被害となりかねないことが危惧される。

 軍事的選択肢の発動が多かれ少なかれこうした破滅的な結末を導びきかねないことを踏まえると、トランプが軍事的選択肢の発動たる空爆を決断することを逡巡する可能性がある。もし悪夢と言うべき展開を回避したいとトランプが考えるのであれば、金正恩との対話に入ることを真剣に検討する可能性がある。トランプが北朝鮮の核保有の限定容認に応じることが考え難い中で、北朝鮮の核・ミサイル関連活動の凍結合意を目指す凍結協議にトランプが入る可能性がある。とは言え、凍結合意に至る道筋は一筋縄ではなく想定以上の時間と労力を要することが予想される。凍結合意が成立するまでどれ程の時間と労力を要するであろうか。北朝鮮の凍結対象活動、凍結活動の検証、凍結期間、凍結に対する米国による見返り、凍結と見返りの履行の方法、経済制裁の解除など、想定される争点の一つ一つに難癖を金正恩が付け、少しでも自陣に都合がよくなるように条件闘争を繰り広げることが推察される。凍結協議が続く間、相当の時間が金正恩指導部に与えられることになろう。この結果、凍結協議は金正恩指導部に核攻撃能力を向上させるまたとない機会になるとも限らない。案じられるのは日韓両国に対する核攻撃能力に加え対米核攻撃能力の向上に向けたさらなる開発に金正恩が邁進することである。弾道ミサイル搭載可能な小型核弾頭の量産を金正恩が目論むことも懸念される。

 もしも凍結協議において折り合いがつかず決裂することがあれば、米朝は厳しく相対峙したままにらみ合いを続けることになろう。この間、金正恩体制を一層締め上げるべくトランプは経済制裁をさらに強化することが考えられる。しかし日々厳しさを増している経済制裁の重荷に耐えられなくなった金正恩が白旗を掲げ非核化を受け入れるという道筋は考え難い。中国の習近平もロシアのプーチンも頼りにはならないと感じた金正恩からみて、体制の存続にとって鍵を握るのは韓国の文在演をおいて他にいない。南北対話を可能な限り活用し韓国から膨大な規模の経済支援を引き出すことに活路を金正恩は見出そうとするであろう。金正恩は飴と鞭を巧みに使い分け、南北融和を謳いほほえみ外交を繰り広げる一方、状況に応じて韓国への一斉砲撃や核の恫喝をちらつかせ文在演を威嚇することも考えられる。これに対し、文在演はどう出るのか。今後を占う上で分水嶺となるのが米韓合同軍事演習の再開ではなかろうか。(おわり)
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