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2018-02-16 08:20

(連載2)対米ICBM完成の展望とトランプの選択肢

斎藤 直樹  山梨県立大学教授
 その際、トランプ政権は二つの選択肢から対応を迫られるであろう。一つは金正恩の望むところの米朝核交渉に入ることであろう。対米核交渉における金正恩の狙いは、対米核攻撃能力の獲得を背景に核保有国としての北朝鮮の地位をトランプに容認させることである。とは言え、米朝核交渉が開催されたとしても、トランプが北朝鮮の核保有を容認することを意味するわけではない。交渉において金正恩が次から次へと法外とも思える要求を繰り返すことは目に見えている。核保有の容認に続き、経済制裁の解除、米朝平和協定の締結、在韓米軍の撤収、米朝国交正常化、膨大な支援などの要求が立て続けに突き付けられることが予想されるからである。限定的であれ北朝鮮の核保有をトランプが容認すれば、北朝鮮による核・ミサイル開発は止むであろうか。むしろ容認を受けた金正恩指導部は核・ミサイル開発をさらに加速化する可能性が高い。またそれまで科してきた経済制裁をトランプは一気に解除できるであろうか。経済制裁を解除することがあれば、遅かれ早かれ潤沢な外貨を獲得した金正恩指導部が核・ミサイル開発の邁進に向けて突き進むであろうことを踏まえると、経済制裁の解除には安易に応じられない。さらに在韓米軍を韓国から撤収することは北朝鮮だけでなく中国やロシアにとって都合がよくても、韓国の防衛と米国の権益確保を熟慮すれば、その撤収をトランプは許容できないであろう。在韓米軍の撤収を認めることは、韓国という同盟国を自ら放棄しかねないことを意味する。

 そうなれば、米国にとって北東アジア地域における最前線は日本となり、在日米軍が北朝鮮、中国、ロシアなどと相対峙することになりかねない。また在韓米軍の撤収という道筋は韓国をして核保有の道を選択させることが予想される。在韓米軍に去られた韓国には相当規模の通常戦力が残存するとしても、韓国は絶えず金正恩による核の恫喝に曝されることになる。そうした中で、国家の存立のために遅かれ早かれ韓国が核保有に踏み切ることが予想される。もっとも1991年以前に戦術核兵器が在韓米軍基地に配備されていたことを踏まえると、トランプが必要と判断すれば、核の再配備は比較的容易であろう。他方、韓国の核の再配備という展望はわが国をも直撃しかねない。北朝鮮の核保有を容認すれば、米国の「核の傘」の実効性に黄色信号が点滅する状況の下で、わが国の世論も急転換する可能性がある。こうしたことから、米朝核交渉が開催され北朝鮮の核保有を限定容認する可能性はないわけはないが、それでことが収まるとは考え難い。限定容認が突破口となり、次から次へと続く金正恩による無制限の要求につながることが想定されることを踏まえると、金正恩が望むような無制限の要求を間違ってもトランプは許容できない。限定容認と言えども、北朝鮮の核保有の容認は既述の通り甚大な影響をもたらしかねないからである。

 もう一つの選択肢は太平洋方面に向け発射準備態勢にある核弾頭搭載ICBMに対し「外科手術式攻撃」と揶揄される空爆を敢行することである。これがしばしばトランプ政権から発言のある軍事的選択肢の発動であり、その発動形態からして先制攻撃に当たる。北朝鮮の核保有を断固容認しないとの判断をトランプが堅持するのであれば、空爆に踏み切る可能性がある。とは言え、発射準備態勢にある核弾頭搭載ICBMを空爆で破壊することなど、果たして実行可能であろうか。2017年7月28日深夜の「火星14」型ICBM発射実験に続き、11月29日深夜に「火星15」型ICBM発射実験が強行されたところをみれば、米軍による空爆を回避することを金正恩指導部が最優先させている節がある。移動式発射台搭載のICBMが夜な夜な現れ深夜に発射される場合、その発射に向けた兆候を米国は事前に察知できるであろうか。上記の二回の発射実験において米国がミサイル発射を事前に察知できたであろうかは明らかにされていない。今後発射準備態勢にある核弾頭搭載ICBMに対し空爆を敢行しようとしても、深夜に発射実験が強行される場合には、空爆に成功する目途が立たないのではないかとの疑問が湧く。

 その結果、金正恩指導部が核弾頭搭載ICBMの発射実験を深夜に強行しようすれば、これに対し米軍による空爆の目標は同ICBMではなく北朝鮮各地に点在する核・ミサイル関連施設に切り替わる可能性がある。しかも寧辺(ニョンビョン)の核関連施設や豊渓里(プンゲリ)の核実験場など、北朝鮮の核兵器開発で中心的な役割を果たしてきた施設が空爆目標になる可能性が高い。もし両施設が壊滅的な打撃を被ることがあれば、激憤した金正恩指導部が何ら報復行動をとらないことは到底想定し難い。金正恩が大規模な報復行動を決断すれば、朝鮮半島中央部で大規模な軍事衝突が発生する可能性が高い。結局、核保有の限定容認か、あるいは軍事選択肢の発動かは堂々巡りの議論となり、思いあぐねたトランプは軍事的選択肢の発動を選択する可能性がある。とは言え、軍事的選択肢の発動がもたらしかねない破滅的な結末を熟慮すると、トランプは決断を逡巡せざるをえない。その結果、米朝が厳しく対峙したまま一触即発とも表現される緊張状態が当分の間、続くことが予想されるのである。(おわり)
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