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2018-02-08 10:16

(連載2)「敵基地攻撃」検討の必要性

斎藤 直樹  山梨県立大学教授
 「敵基地攻撃」は法理的に可能なのか。核弾頭搭載弾道ミサイルが発射からわが国への着弾まで時間にして十分も残されていないとすれば、同ミサイルの脅威はそれこそ急迫不正の侵害に対する自衛権の行使と解釈されるであろう。またそうしたミサイル攻撃に対しわが国がミサイル防衛で防衛態勢をとっているとは言え、その迎撃能力について疑問が残ることを踏まえると、他にそうした脅威を排除するためにこれといった自衛手段がみつからないのが現実であろう。さらに核・ミサイル関連施設に破壊が限定されるという、必要最小限度の実力行使に止まるという条件が確保されれば、「敵基地攻撃」が自衛権の行使の条件を満たしていると言えないわけではない。とは言え、専守防衛を掲げるわが国にとって具体的形態として先制攻撃に相当する「敵基地攻撃」は専守防衛の範囲に止まらない可能性がある。これまでの一般的な理解に照らしてみると、わが国が独自で「敵基地攻撃」を行いえる余地は多くはない。「敵基地攻撃」は法理的に可能であると解釈されたとしても、専守防衛の立場から攻撃的兵器を自衛隊は保有できないとされてきたことから、必要な場合には日米安保条約の枠組みで在日米軍に委ねられると考えるのが一般的である。

 すなわち、日米安保条約に基づき在日米軍が北朝鮮の核・ミサイル関連施設に先制攻撃を行うことを意味する。このことは、必要と判断されれば、在日米軍が「敵基地攻撃」のために出動する可能性があることを示唆するものである。とは言え、「敵基地攻撃」としばしば呼ばれる核・ミサイル関連施設への先制攻撃という選択肢にはなかなか解消されがたい課題が付きまとう。その事由の一つは北朝鮮の主力弾道ミサイルが固定式発射台搭載様式から上空からの探知が難しい移動式発射台搭載様式に移行していることに関連する。一部のノドン・ミサイルのような移動式発射台に搭載されたミサイルについては、「敵基地」がいちいち移動することから、「敵基地攻撃」という文言自体に疑問符が付く。相当数に上る移動式発射台搭載ミサイルを極めて短時間の内に発見することは決して容易なことではない。と言うのは、地下坑道に秘匿された移動式ミサイルは上空から探知し難いだけでなく、いよいよミサイルを発射する段階で地上に姿を現すからである。

 もし深夜に移動式ミサイルが発射されるのであれば、事前に同ミサイルを探知することは一層困難になると推察される。それでは移動式発射台搭載ミサイルの大部分が探知され、何らかの方法でわが国に向けて攻撃着手態勢に入っていることが確認されたことを受け、移動式ミサイルを破壊する作戦行動に打って出ると想定してみよう。その際、作戦行動と破壊規模を果たして最小限度に止めることができるであろうか。核・ミサイル関連施設など固定目標であれば、命中精度が極めて高い精密爆撃や巡航ミサイル攻撃によって破壊規模は限定できるかもしれないが、相当範囲に点在していると想定される移動式ミサイルを速やかに発見し破壊するとなれば、広範囲に及ぶ作戦にならざるをえない。

 こうしたことを踏まえれば、相手側にとっても状況は極めて切迫していることから、ミサイルが破壊される危険性に曝される前にミサイルを発射するよう動機づけられることが想定される。2016年8月と9月に強行されたノドン・ミサイルの発射実験や2017年3月のスカッドERの発射実験は今後、起きかねない事態を暗示させかねない。もし北朝鮮領内の複数の拠点から幾つもの弾道ミサイルが連続的にわが国に向けて発射されるような場合、既存のミサイル防衛システムがそれらを確実に迎撃することは難しいと考えられる。それゆえに、「敵基地攻撃」との呼称の先制攻撃の必要性が叫ばれている所以である。わが国の排他的経済水域へのノドンやスカッドERが相次いで落下している現実を目の前にして、この選択肢の検討を様々な視点から早急に進める必要があることは確かであろう。(おわり)
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