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2007-03-08 09:42

従軍慰安婦問題と日米関係の歴史的文脈

滝田 賢治  中央大学教授
 ここワシントンで日本ウォッチャーへのインタヴューをするつもりが、逆に安倍発言について質問攻めにあっている。しかしアメリカ側が、従軍慰安婦の軍部による「強制」性をまったく個別の人道的問題・人権問題として見ていると解釈するのは近視眼的であろう。この問題に対するアメリカの関心の強さの背景には、小泉政権発足以来、現安倍政権に至る日本のナショナリズムの高まりに対する警戒感があり、さらにこの警戒感の背景には、より深く、対日占領政策を含むアメリカの戦後対日政策全般の正当性が問われているという意識が存在しているとみるべきである。

 即ち、日本を民主化し、忠実な同盟国として「育成」してきた戦後対日政策が破綻しつつあるのではないかという恐れを強めているのである。共産圏ばかりか旧敵国の日独を「二重に封じ込めてきた」にもかかわらず、ドイツはフランスと共に独自の道を歩み始め、今また日本も独自の道を歩み始めつつあるのではないかという恐れである。いやそれ以上にアメリカの過去の歴史そのものが問われているという深刻感があるように見える。

 日本がナショナリズム的傾向を強め、過去の歴史を否定する修正主義者によって主導されていくならば、アメリカの占領・民主化政策の大前提であった日米戦争の大義、即ち日本のナショナリズムの暴虐な表現として展開された中国侵略に対し、これを抑止ししつつ中国を援助したために発生した日米戦争の大義自体が否定されることになるのである。安倍政権は当面「強制」の有無を問題にしているが、アメリカはもっと広い文脈の中で慰安婦問題を捉えようとしているし、捉ええざるを得ないのである。

 強制の定義と、その有無について議論すること自体は無意味とはいわないが、ここに議論を集中すると本質的問題を見失うことになる。「木を見て森を見ざる」結果となる危険を認識すべきである。仮に軍部による直接的な「強制」がなかったにせよ、ブローカー的業者が5~20万人の女性達を日本の将兵達に性的サーヴィスをさせていた事実は否定できまい。それは軍部の了承なしにはなしえなかったことも否定できまい。金銭目的で自発的にサーヴィスを提供した女性が皆無であったかどうかは必ずしも明確でないが、戦争という異常な状況の下で、たとえ自発的に「志願」したとしても実質的には監禁状態でサーヴィスを強要されたと考えるのが「まともな知性」である。軍部の直接の関与がなかったにしても、その統制下で暴力的に拉致・監禁されたことはほとんどの場合真実であると見るべきである。

 軍部の直接的な「強制」がなかったという「形式論」は無意味であり、軍部の管理下でこれと密接な関係を持つブローカーが「強制的」にサーヴィスを行わせたならば、それは軍部が「強制」させたことと実質的には同じである。直接インタヴューした女性達の中に、自発的に「志願」した者がいたといって「強制」はなかったと言い張ることによって、日米関係ばかりか、21世紀に日本が共生していかなければならない東アジア諸国との関係を損ねることこそが「国益」そのものを損ねることになるのである。
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