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2017-12-01 14:22

習近平主席の“皇帝気取り”は自己矛盾

倉西 雅子  政治学者
 中国では、10月18日に首都北京で開催された中国共産党第19回代表大会を機に、習近平国家主席が権力基盤を固めたとする見方が有力です。その自信の現れか、アメリカのトランプ大統領の訪中に際しては、あたかも“皇帝”のような振る舞いで同大統領を手厚く歓待したと報じられております。特に耳目を集めたのは、紫禁城(故宮)を舞台とした豪華絢爛な接待です。一般の国民には公開されていな特別の部屋において催された夕食会は、かつての紫禁城の主であった皇帝主催の宴会を髣髴させるほど、贅を尽くした宴であったことは想像に難くありません。アメリカに対しては自国の威信を示すと共に、国民に対しては自らの権威を高める絶好の機会と見なしたのでしょう。習主席を主人公とする“中国の夢”への舞台の幕が開いたかのように。

 しかしながら、この過剰な演出は、習主席の自己矛盾を炙り出すこととなったように思えます。何故ならば、今日の中華人民共和国とは、同国の憲法の前文にも謳われているように、過去の中華帝国(封建帝政)との決別と否定の上に成立しているからです。しかも、紫禁城は、漢人にとっては異民族となる女真族が建国した清国の皇帝の居城です。首都北京も、女真族の金朝が燕京として首都とし、その後、元朝のフビライ・カーンが大都を造営しており、異民族支配の色彩が強い都市とも言えます。今日の中国の積極的な海洋進出は、明朝時代の永楽帝による鄭和の遠征を模しているのかもしれませんが、このような習主席の復古趣味は、“中国の夢”とは、それが異民族支配であれ、絶対権力者である皇帝が君臨する帝政への回帰ではないか、とする疑いを国民に抱かせることでしょう。

 加えて、故宮での豪華絢爛な饗宴は、近年、習政権が進めてきた“贅沢は敵”の綱紀粛正政策にも反しています。一般国民や他の共産党員には質素倹約を強要する一方で、自らは、皇帝さながらに贅を極めるようでは、示しがつかないこととなります。中国国内では、習主席の権力掌握と並行するかのように情報統制が強化されており、それは、逆から見ますと、国民の不満が高まっている証ともなります。

 今日の中国は、共産主義が約束した“平等”とは、結局は、プロレタリアート独裁を名目とした、独裁者、あるいは、共産党員という一部の特権階級の出現に過ぎなかったことを、自ら証明しているようなものです。平等が不平等となり、過去の否定が未来の理想となる現実は、中国のみならず、目的地と到着地が逆になり、右に行ったつもりが左に至るといった、今日の政治の世界で散見される“二重思考”、“逆転思考”あるいは、“循環戦略”ともいうべき詐術的政治手法への警戒感を、厭が応でも高めているように思えるのです。
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