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2007-03-07 19:37

我々が忘れてしまった日中関係

河東 哲夫  Japan-World Trends代表
 日本に帰って2年になるが、日中関係が深くなっていることには驚かされる。昨年暮れには東京在住の中国人ビジネスマンの忘年会に出てみたが、なんと日本の主だった企業は軒並み、中国人を雇っていることを発見した。中国経済の分析や中国とのリエゾンのためにである。それに、日本に帰化する中国の若い女性が増えている。話してみると、「日本の企業の方が働きやすい職場環境だから、帰化した」のだそうだ。日本の企業では女性総合職の普及とかセクハラ防止対策の充実とかで、確かに女性にとっては環境が良くなったのだろうなと思う。

 こうして交流が格段に深まっているわりに、相互の理解はまだ初期にある。まず日本人は、自分達の歴史で中国がどれだけ重要な役割を果たしたかを忘れ、企業でも欧米在勤経験者の方が中国在勤経験者より幅を効かしている。中国人は学校で歴史をしっかり学ぶのに、我々は表面しか教えてもらっていない。大化の改新は、唐が高句麗を攻めるという緊迫した当時の情勢と無関係でないし、我々は「古今集は純日本的」だと教え込まれたが、梅の香りをめでるという美的感覚など実は中国伝来のものである。鎖国していたはずの江戸時代でも中国との交易はあり、武士の基本教養は漢学、儒教だった。日本がアジアの中心的存在になったのは、やっと1900年以降のことであり、しかも中国共産党が天下を取っていなければ米国は中国をアジアにおける主要なパートナーとして扱ったことだろう。

 中国の歴史にも、中国人が知らない点は多々ある。中国は、実はアメリカによく似た多民族国家なのである。異民族と言うとすぐ、「文化的に優れた漢民族が周囲の遊牧民族を感化してきた」歴史が語られるが、中国諸王朝の宮廷では西域のソグド出身の高級官僚や貴族が多数活躍して経済行政などを司っていたことは看過されている。アケメネス朝ペルシャの成立が秦始皇帝の中国統一より340年も早かったように、進んだオリエントの文明が中国に影響を与えていないはずがない。

 中国が日本を見る目も、その多くは実体から離れている。ソ連の日本観を学んだ人達は日本に邪悪な意図と脅威を見がちだし、アメリカの日本観を学んだ人達は日本を金はあるが力のない国として軽視する。中国人も日本人と同じく欧米志向があるのだ。だが、いずれの日本観も実際の日本からは遠い。中国は日本を過度に危険視すれば過度の防衛負担を負うことになるし、過度に軽視すれば日本側の怒りを招き、日本を本当の脅威にしてしまう。日本を歪みのないレンズで見れば、そのような損失をむざむざ蒙ることはないだろう。日本も、中国全体が反日で凝り固まっていると思い込んで報復措置を取ると、本当は一枚岩でなかった中国をかえって一枚岩にまとめてしまうことになるだろう。日本人も中国人も、自分の対中観、対日観を既得権益であるかのように墨守するより、頻繁に往訪し、市民の生活を描いた映画やテレビ・ドラマを見、ラジオを聴くことによって、21世紀にふさわしい相互理解を築くべきだ。
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