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2017-10-14 11:07

北朝鮮とビットコインは一蓮托生か

倉西 雅子  政治学者
 国連安保理の枠組における制裁措置のみならず、日米をはじめ各国が北朝鮮に対する独自制裁を強める中、北朝鮮によるビットコインの取得にも警戒が必要となってまいりました。報道によりますと、北朝鮮は、既に外貨獲得の手段として仮想通貨であるビットコインのマインニング(mining: “鉱山採掘”)に乗り出しているそうです。ビットコインは、発行元から提示された高度な計算問題を最初に解いた者に報酬として提供されるため、問題の解答を専門とする業者は、金鉱山の採掘に擬えてマイナー(miner: 鉱山採掘者)と呼ばれています。否、マイニングにさえ成功すれば、事業者は、私人でありながらも、国家を排して直接に“貨幣発行益”を手に入れることができます(北朝鮮の場合、私人ではないが“国家ぐるみ”のマイナー…)。北朝鮮は、独自通貨である北朝鮮ウォンは国際通貨ではなく、法定通貨としての信用も低いため、核・ミサイル開発のために貿易決済に使用することはできません。しかしながら、ビットコインであれば、分裂したとはいえ、世界各地の取引所において各国の法定通貨と交換できますので、“おたずね者”にとっては、これ程、“マネーロンダリング”が容易な“貨幣”もないのです。
 
 ところが、ビットコインには、ブロックチェーンという仕組みがあるそうです。この仕組みは他の様々な分野にも応用できるそうで、フィンテックの中核的技術として期待されてもいますが、ブロックチェーンの仕組みとは、従来の通貨システムが中央集権型であるとしますと分散型であり、多くの人々が情報を共有することで不正ができない、つまり、衆人監視の下で通貨価値が維持されるシステムとして説明されています。つまり、その名が示すように、発行以降の全ての取引情報はチェーンの如くに繋がってゆき、データとして広範囲に記録されるため、永遠に消えることは無いということになります。この理解が正しければ、ビットコインとは、取引の都度、所有者が常に記録されている、即ち、特定できる仕組みとなります。仮に、北朝鮮がビットコインのマイニングに成功したとしても、現金取引とは違い、これをどのように使おうとも、“足がつく”ということになります。となりますと、ビットコインの取引所に対して北朝鮮が獲得したビットコインの取引を禁じる、あるいは、発行者に対して北朝鮮系マイナーの排除を求める措置を取れば(どの国が発行者に対する行政権を持つのであろうか?)、北朝鮮による使用を封じることができるはずです。それとも、ビットコインとは、これまでも犯罪組織の利用が懸念されてきたように、取引データとしての記録は残っても、その所有者については発行後の動きを追うことはできないのでしょうか。

 また、マイニングに成功するためには、大量の電力を消費する大規模なコンピューター設備を要するそうです。北朝鮮は、現在、厳しい経済制裁の下にあり、電力に余剰があるとは思えず、マイニング目的で大量の電力を消費すれば、国民生活はさらに逼迫することでしょう。エネルギー事情によって国内でのマイニングを長期的に維持することはできないしょうが、北朝鮮は、海外においてマイニング事業者を設立するかもしれません。マイナーの多くは、電力料金の安価な国に集中しているそうです。電力料金を支払うための外貨が必要となりますので、北朝鮮は、ここでも外貨の壁にぶつかりますが、北朝鮮系マイナーによる事業所設立を阻止するためには、各国政府が、ダミー会社をも含めて事業許可を与えないといった措置を要することでしょう。さらに、最近では、北朝鮮は、サイバー攻撃によってビットコインの盗取を企てたという情報があります。今般の事件では、被害は発生しなかったそうですが、仮に、この窃盗行為に成功すれば、ブロックチェーンによって“ブロック”されているビットコインは安全という神話も崩壊します。

 そもそもビットコインの発行とは、私人による一種の“通貨偽造”ですので、初めからいかがわしい存在なのですが、北朝鮮が絡むことで、さらにそのイメージは悪化しそうです。そして、仮に、北朝鮮がビットコインの入手により経済制裁によるダメージを緩和し得るとしますと、それを許すビットコインに対する批判もさらに高まることでしょう。しかも、上述したような、北朝鮮のビットコイン使用を完全に封じ込める措置を取ろうとすれば、ビットコインの取引や使用を許している全ての諸国の緊密な協力を要します。この一件は、北朝鮮のみならず、国際社会において改めてビットコインのリスクと問題性をも問うているように思えるのです。
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