国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「百家争鳴」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2017-09-15 20:58

朝鮮半島難民大量発生論への疑問

倉西 雅子  政治学者
 緊迫の度を強める一方の北朝鮮問題については、米軍の対北武力行使の準備は既に整っているとされ、何時、有事発生の速報が届いてもおかしくない状況が続いております。米朝両国とも矛を収める気配はありません。ところで、仮に軍事衝突に至った場合、朝鮮半島から大量の難民が押し寄せるとするシミュレーションがあります。チェタン・ペダッダ米退役陸軍大尉が「フォーリン・ポリシー」に寄せたシナリオでも、短期間で北朝鮮が制圧されることは確定的でありながらも、朝鮮半島は壊滅状態に至り、日本、アメリカ、中国に大量の難民が押し寄せると予測しております(9月10日付産経新聞一面に掲載)。

 このシミュレーションは、北朝鮮による核兵器の使用は想定していないそうですが、韓国の首都ソウルが壊滅し、生活・産業インフラも破壊される共に、北朝鮮が大量破壊兵器である生物・化学兵器をも使用するため、人的、並びに、物的被害が広範囲に及ぶと推測しているようです。おそらく、北朝鮮難民は中国を目指し、韓国からは日本国やアメリカを目的地とすると難民が流出すると予測しているのでしょうが(仮に米朝が開戦し、北朝鮮が核兵器を使用する場合には、難民の選択肢は中国一択となる…)、このシナリオには疑問があります。その理由は、歴史を振り返りますと、短期間で民間人居住地での戦闘が終結する場合には、それ程大量の難民は発生しないからです。

 例えば日本国の場合、戦争末期にあっては都市空爆を受け、多くの一般市民が住む家を失い、その日の食糧にも事欠くあり様となりましたが、難民となって国外に流出することはありませんでした。否、逃げずに日本国内に留まり、焼け野原を前にして多くの国民が日本国の再建を誓ったからこそ、戦後、奇跡と称された復興を実現することができたとも言えます。この観点から見ますと、シリア難民問題がなかなか解決を見ない理由は、内戦が短期に終結しておらず、住民をも巻き込む形で長期化していることから説明できますし、アフガニスタンからの難民流出が止まらない原因も、同地でのテロや戦闘状態の継続にあります。

 かつて、リビアの独裁者であったカダフィ氏は、米欧諸国による空爆を前にして、自国民の難民化とヨーロッパへの大量移入を語って軍事行動を牽制しましたが、大量難民のリスクは、空爆に対して慎重な姿勢にさせる効果があります。しかしながら、軍事力としては米軍が北朝鮮を圧倒している状況にあっては、戦闘の短期終結が予測されますので、一時的避難はあり得ても、難民の大量発生は懸念材料とはならないのではないかと思うのです。また、日本国の経験からしますと、早期の戦後復興を成し遂げるためには、南北当事国の国民は、むしろ自国に留まり、祖国の再建に尽くす必要があるのではないでしょうか。
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『百家争鳴』から他のe-論壇『百花斉放』または『議論百出』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
東アジア共同体評議会