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2017-07-21 20:40

(連載1)日米EPAをためらうな

田村 秀男  ジャーナリスト
 ドイツ・ハンブルクで開かれた20カ国・地域(G20)首脳会議(サミット)は、首脳宣言で「保護貿易主義との闘い」を盛り込んだが、問題はトランプ米大統領の国際経済秩序からの逸脱だけではない。舞台裏で進行した議長国ドイツのメルケル首相と「一帯一路」構想の中国・習近平国家主席の蜜月関係だ。中独という巨大貿易黒字国連合は世界の不均衡、対立と分裂を助長しかねない。アジアを代表する日本は、欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)の大枠合意に続いて、米国にも締結を働き掛けるべきだ。

 ハンブルク・サミットに合わせて安倍晋三首相はEU首脳とEPA締結で大枠合意したが、ドイツやフランスの首脳が目の色を変えて売り込むのはワインやチーズではなく、電気自動車(EV)であり、提携先は日本ではなく世界最大の市場、中国だ。メルケル氏と習氏との5日の会談では、ダイムラー社と中国社のEV共同開発、シーメンス社と中国メーカー数社との戦略的連携で合意した。そしてメルケル氏は一帯一路構想への参加を約束した。ハンブルクは一帯一路の欧州側ターミナルであり英国離脱後のEUの盟主同然のドイツと中国の連結は中・欧経済圏の実現を予期させるのに十分だ。

 だが、中独が米国に代わって世界経済の安定をもたらすはずはない。両国は対外貿易黒字で他を圧倒する。輸出の輸入に対する超過額(経済協力開発機構=OECD=統計)は2016年で、中国5472億ドル(62兆3800億円)、ドイツは2820億ドルで、G20総計の貿易黒字700億ドル、日本の367億ドルを圧倒する。中独合わせた貿易黒字は米国の貿易赤字と対称形をなしており、貿易収支を国家の損得と考え、貿易をゼロ・サム・ゲームとみなすトランプ政権の保護貿易衝動を一層駆り立てかねない。

 上記のEVの場合、中国は党・政府総ぐるみで開発と普及を支援しており、EV用を中心に需要が急増するリチウムイオン電池生産の中国の世界シェアは55%で、21年には65%に拡大する(ブルームバーグ調べ)。党の強権をバックにした中国式デファクトスタンダード(事実上の標準)がここでも幅を利かせるだろうか。(つづく)

 
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