国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「百家争鳴」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2017-05-31 16:36

党と中国企業のための「一帯一路」

田村 秀男  ジャーナリスト
 先日、「一帯一路サミット」と称する国際会議が北京で開かれた。「一帯一路」とは習近平中国共産党総書記・国家主席が唱道する欧州、中東、アフリカ、中央アジア、東南アジアを陸と海のインフラで結びつける経済圏構想だ。会議では習氏が合計7800億元(約12兆8000億円)のインフラ整備資金を追加拠出すると表明した。同構想の推進を自身の権力基盤固めの手段にしているだけに、習氏はロシアのプーチン大統領らの出席者に気前のよいところをみせた、というところだろうが、ちょっと待て。そんなカネをどう捻出するのか。

 通常、海外向け投融資はドル建てで行われる。プロジェクトを実行する国も受注企業もドルを選ぶからだ。7800億元はドル換算で約1100億ドル相当だ。中国の外貨準備は3兆ドル、世界一の規模であり、その一部を充当できるから問題ない、と見る向きもあるだろうが、外貨準備は無きに等しい。中国の外準は対外負債4・6兆ドル、すなわち外からの借金によって支えられている。最近はかなり落ち着いてきたが、中国はことし初めまで巨額の資本逃避に悩まされ、外準は急減してきた。習政権は資金流出を食い止めようとして、企業や個人の外貨持ち出しを厳しくチェックしている。習氏が外貨を大盤振る舞いできるはずはない。

 そこで、追加資金の内訳をよくみると、大半は人民元である。インフラ投資基金を1000億元増額、政策投融資機関である中国国家開発銀行と中国輸出入銀行が合計3800億元を融資、大手国有銀行が人民元建ての3000億元規模の基金を設立するという。何のことはない。党が支配する中国人民銀行が人民元を刷って、国有銀行が融資すればよいだけだ。この手口は本来、国内向けに限られてきた。2008年9月のリーマン・ショック後、党中央は人民銀行に命じて人民元を大増刷させ、国有銀行には融資を一挙に3倍程度まで増やさせた。その結果、国内のインフラや不動産開発投資が活発化して、世界でもいち早く不況から立ち直り、高度成長軌道に復帰した。同じ手を今度は「一帯一路」沿線国・地域に使おうという魂胆だ。

 ではだれがそんな資金を受けとるのか。上記の通り、外国企業は「ドルでよこせ」と要求するだろうが、中国企業なら人民元で構わない。国内総生産(GDP)を見ても、融資を受ける国の経済力は弱く、人民元でなくてもカネは欲しい。人民元建て債務返済に縛られる政治的代償を払う羽目になる。「一帯一路」とは、習氏の「党による党と中国企業のため」のプロジェクト、ビジネスモデルなのだ。それでも欲に目のくらんだ欧米企業は北京詣でに余念がない。欧米メディアによれば、米国のゼネラル・エレクトリック(GE)、ハネウエルやドイツのシーメンスなどは主契約者が中国企業でも、その下請けで受注できると踏んでいるというが、ちょっと情けない。
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『百家争鳴』から他のe-論壇『百花斉放』または『議論百出』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
東アジア共同体評議会