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2016-12-02 23:01

(連載1)行き詰まった米国型株主資本主義

田村 秀男  ジャーナリスト
 米大統領選で共和党のドナルド・トランプ氏が勝利した。共和、民主両党の主流派が推進してきたグローバリズムへの「ノー」に米国民の多くが唱和した。底流には米国型資本主義モデルの行き詰まりがある。日本は表面的な「トランプショック」に惑わされず、米国モデル追随路線を見直す機会にすべきだ。トランプ氏は職を奪う自由貿易協定の破棄や移民排斥を訴えた。米国の格差拡大、白人中間層の困窮化から来る不満をすくい上げた。

 かと言って、モノ、カネ、ヒトの国境をなくしていくグローバリズムを逆流させる動因はそうした国民感情ばかりではない。多数とは言えないにしても、これまでグローバル化を担ってきた主流派の中にもトランプ氏を推す勢力が存在する。でなければ、トランプ氏は全米的な支持を得られるはずはなかったはずだ。米国型資本主義には今や、トランプ氏のような異端者、劇薬の固まりのような人物の手を借りなければ、打破できないほどの閉塞感が漂っている。

 米国型資本主義モデルとは、世界最大の債務国米国が日本をはじめとする外部からの資本をニューヨーク・ウォール街に引き寄せることで成り立つ。そのための枠組みはグローバルな金融自由化ばかりではない。株主利益を最優先する企業統治という仕掛けとグローバリゼーションは一体化している。金融市場の投資尺度は企業財務のうち、株主の持ち分とされる「純資産」、すなわち株主資本に対する利益率である。利益率を高める経営者にはストックオプションなど高額の報酬が約束される半面で、一般の従業員は絶えずリストラの対象にされ、給与は低く抑えられる。そんな金融主導モデルが全産業を覆ってきた。

 このビジネス・モデルはグローバリズムを推進した1990年代の民主党ビル・クリントン政権と2001年発足の共和党ジョージ・W・ブッシュ政権のもとで大成功を収めた。1994年には国内総生産(GDP)の4%余りだった外国資本流入は07年には16%近くまで上昇する間、ウォール街は沸き立った。世界の余剰資金は住宅市場に流れ込んで住宅相場をつり上げた。住宅の担保価値上昇を受けて、低所得者にも住宅ローンが提供された。多くの家計は値上がり益をあてに借り入れ、消費に励み、景気を押し上げた。日本、中国など世界各国は対米輸出で潤った。(つづく)
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