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2016-11-24 22:10

トランプを迎えるNATOの憂鬱

川上 高司  拓殖大学教授
 ベルギーのブリュッセルでは、NATOの新庁舎が建設中である。巨大で最新のビルは、ヒラリー・クリントン大統領を迎えることを想定して工事が進んでいた。だが、NATOの高官たちにとってそれは夢と終わり、悪夢が始まった。ドナルド・トランプ大統領を迎えなくてはならない。そもそも彼はNATOサミットに出席するのか?もともとNATOサミットは新庁舎で来年1月末に開催予定だった。しかし、アメリカ大統領就任式と日程が近かったため、「トランプ大統領が出席しやすいよう」4月に延期して開催することになった。とにかくトランプ大統領に来てもらわなければ話にならない。トランプはNATOからアメリカを脱退させるかもしれないのだ。NATOでは創設以来初めての「危機」に直面している。

 ヨーロッパ諸国にとってロシアの脅威から身を守るためにはアメリカの防衛力は不可欠である。自力では防衛できない小国も少なくないので、防衛はアメリアに頼ってきた。一方でトランプはロシアとは協調路線を主張しているのだから、脅威は消えるのではないかとも思われるがそう簡単ではない。ポーランドなどは「頭ごなしに米露が仲良くなっても困る」のである。ウクライナの紛争が進行中の東ヨーロッパにとって、ロシアはどう転んでも脅威でしかない。

 トランプの国家安全保障担当補佐官に就任するマイケル・フリンはドイツのシュピーゲル誌に対して、「トランプは、コストに関する限り同盟国への配慮は微塵もない」と答えていることからわかるように、トランプには長いつきあいというしがらみは通用しない。2014年のNATOの合意として、各国はGDPの2%を防衛費にあてることになっている。だが大国ドイツですら1.19%しか達成できていない。アメリカ依存は顕著なのである。

 そんななか、トランプ当選を受けてNATOの間では極秘のレポートが出回った。各国に自助努力を求める内容だ。兵力、航空機などの目標数を2032年までにNATOに提供すること、ドイツは1%の貢献を上乗せすることなどである。アメリア依存からの脱却を目指すことはよしとしても、アメリカの穴埋めをドイツが担うことになるのか。それはドイツが再び軍事大国になることを認めることであり、それを許すのか。別の問題が浮上してきてヨーロッパはさらに悩みが深まる。ヨーロッパはトランプによって自らのあり方の見直しを迫られている。
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