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2016-11-17 06:15

米国で始まった“暗殺者たち”との戦い

杉浦 正章  政治評論家
 撃たれた大統領ロナルド・レーガンが手術前に医師たちに「あなた方がみな共和党だといいんだがねえ」とジョークを飛ばし、医師は「大統領、今日一日は我々は皆共和党です」と答えた逸話は、有名で記憶に新しい。その物騒なアメリカで第45代大統領になるドナルド・トランプに対する暗殺予告がツイッターなどネットに次々に投稿されている。昔筆者が愛読したニューヨークの大衆紙ポストは「急増する暗殺予告にシークレットサービスが、一つ一つ捜査に乗り出している」と報じている。本当かどうかつぶして回っているらしい。実際トランプは遊説中のネバダ州で、演説中に群衆に狙われSPに保護された映像がYouTubeに公開された。聴衆の1人が「ガン!」と叫んだのが切っ掛けで、トランプは演説を中断、SPに囲まれるようにして演壇を離れた。

物語るのは、今回の大統領選の作り出した米国の憎悪と分断の構図が、戦後の政治史上類を見ないほど高まっていることであろう。ニューヨークのトランプタワーの前には連日デモが押しかけ、カリフォルニア州など各地で暴力沙汰に発展している。全米各地でトランプに投票したというだけで、殴られる、という暴力事件が多発している。そうした中で一部異常者の中には、大統領暗殺で後世に名前を残したいという“願望”が一段と募っていることが、ネットへの書き込みの多さからうかがえるのだ。トランプは防弾チョッキを常時着用しているといわれ、トランプタワーから半径3.7キロは飛行機もドローンも進入禁止となっている。もちろんシークレットサービスも大統領並みの警護を展開している。シークレットサービスが大統領候補の警備を本格化させたのは、1968年に大統領選でジョン・F・ケネディの弟ロバート・ケネディが、キャンペーン中のカリフォルニア州ロサンゼルスで暗殺されて以来といわれる。実際米国の政治史は「大統領が暗殺者と戦う歴史」でもある。

 米国史上暗殺された大統領は4人いる。第16代のエイブラハム・リンカーンに始まって、第20代のジェームズ・ガーフィールド、第25代のウィリアム・マッキンリー、そして第35代のケネディに至る。凶弾を受けて助かった大統領は2人で、第7代のアンドリュー・ジャクソンと第40代のロナルド・レーガンだ。2人を含めた暗殺未遂事件は10件。発覚した暗殺計画を加えれば16人が狙われている。レーガンは医師に「共和党か」と尋ねたが、暗殺された大統領4人のうち、民主党のケネディをのぞく3人が共和党だった。それに奇妙なことに5代ごとに凶弾を受けている。第20代のガーフィールド以降は第25代、第30代は飛ばして、第35代と続き、第40代はレーガンだ。そしてトランプは第45代となるのだ。まさに4度あることは5度あるかもしれないと思えてくる運命のいたずらだ。

 選挙期間中は逆にトランプに対してクリントン側が「暗殺を教唆扇動した」と激怒する事件が起きている。なんとトランプが8月9日のノースカロライナ州の集会で、銃規制を推進しようとしているクリントンを批判して「銃保有の権利を支持する人々が、民主党候補クリントン氏の当選を阻止するために、できることがあるかもしれない」と発言したのだ。トランプは演説の中で、クリントンが本選挙で勝ち、大統領としてリベラル派の最高裁判事を指名すれば、「武器所有の権利を認める米国憲法修正2条は廃止されるだろう」との見解を表明。その上で「そうなったら、もうお手上げです。でも修正第2条の廃止に反対の人々にはできることがあるかもしれない、私にはわからないけれど」と述べたのだ。まさに映画ゴッドファーザーでマフィアの親分が抗争相手の殺害を子分に言い渡す時のように、それとなく表現している。

 こうしてシークレットサービスやFBI、CIAなど捜査当局と暗殺者との戦いは幕開けとなった。戦いは長期化するが、今回の場合の特徴は国論の分裂が深刻かつ根深く、どこから弾が飛ぶか分からないことだ。警備の警官や軍人だって何をするか分からない事態である。銃社会だけあって、武器はこれまですべて拳銃かライフルであったが、ここに来て多様化している。スナイパーライフルM24の有効射程は800~1500メートルで、M82の有効射程は1800メートル。相手が見えないところから弾が飛んでくるのだ。ホワイトハウスのガラスはもちろん防弾だ。トランプタワーのガラスも防弾にするだろうが、ロケット弾という手法も考えられる。加えて航空機など空からの攻撃や、ドローンが一般化しており、攻撃に利用することもあり得ないことではない。それこそトランプは枕を高くして眠れない日々が続くのだろう。
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