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2016-10-14 19:16

(連載2)ドイツを悩ます8つの衝撃

児玉 克哉  社会貢献推進機構理事長
 第4に、為替レート安定のユーロ戦略である。一般的には経済が好調であれば通貨が強くなり、輸出が鈍るようになる。まさに為替においても「神の手」があるはずなのだが、ドイツだけでなくヨーロッパ全体での通貨となると、ドイツの経済が好調でもユーロ高は抑えられる。この構造は輸出国ドイツにとって好都合であった。EU、ユーロ維持をすることは、ギリシャ経済破綻危機などでドイツが財政的に支えても構わないくらいの利益をもたらす。この構造が強いドイツと安定したEUを作ってきたのだが、ドイツが諸々の案件で追い込まれると、EUの仕組み自体が見直されなければならなくなる。すでにイギリスが去ろうとしている。ギリシャ危機もまだ終わったわけではない。ドイツが支えることができなければ、EUのシステムが見直されなければならない。ドイツの発展の前提の一つが壊れる可能性がある。

 第5に、VWの排ガス不正問題の後始末である。VW社の不正ソフト事件が明るみに出てから約1年が過ぎた。最近はあまりニュースにならないが、問題が解決したわけではない。これから巨額の制裁金などが科せられると予想される。またVW社の自動車売り上げも厳しい。ドイツ国内やヨーロッパでは落ちていないので、格好は保っているが、アメリカ、南米、ロシアではかなり落ち込んでいる。中国の売り上げはまだ大きいが、これは中国市場の冷え込みもあり、依存することができない。つまり中国での展開がつまづき始めれば、相当に厳しい状況に置かれそうなのだ。VW社はドイツの優良企業であっただけに、今後の展開によってはドイツ経済の足を引っ張りかねない。

 第6に、ドイツ銀行ショックである。さらにドイツの経済を揺らす問題が持ち上がっている。ドイツ銀行がアメリカでの住宅担保ローンに絡む不正販売から、アメリカ司法省が同行に対し140億ドル(約1兆4000億円)の支払いを求めるというニュースだ。制裁金が1兆4000億円となると半端ではない。金融機関の不安定化は、経済全体に悪影響を与える。本当にどれだけの制裁になるのかはわからないが、この可能性がある中で、決着が長引けば、株式市場への悪影響とともに、ドイツ銀行からの資金の流出が起こりうる。すでにヘッジファンドの客が逃げ始めているといわれる。ドイツ銀行の低迷は長期にわたってドイツ経済を苦しめることになるかも知れない。第7に、メルケル首相の支持低下である。こうした諸々の状況は政治を混乱させつつある。高かったメルケル首相の支持率もかなり落ちている。来年の首相選への出馬はまだ不明だが、おそらくないのではないか。再出馬しても当選する可能性は低くなっている。経済も社会も政治も安定しているといわれたドイツだが、すべてに状況は不安定化している。メルケル首相の後の展望もわからない。

 第8に、アメリカのドイツ潰しである。ドイツ銀行問題などではアメリカがドイツを潰しにかかっているという見方もある。中国、ロシアと親密な関係になり、アメリカに対抗できるヨーロッパの盟主としてのドイツは、アメリカにとっては望ましい存在ではなかった。米ソ冷戦時代は、ドイツは日本とともにアメリカの従順な手下であったが、ドイツはアメリカに楯突くことができる国になりつつあった。それは、中国潰し、ロシア潰しにもつながり、アメリカのヨーロッパへの影響力を高めることになる。逆の視点からみれば、メルケル首相はアメリカが一目置くだけの世界的な影響力を持ったとも言える。トランプ大統領の誕生ともなれば、状況はさらに不透明になる。ドイツ銀行への制裁がトランプ大統領のもとで行われたらどうなるか。恐れている関係者は少なくない。今、ABCDショックとも言われる。Aはアメリカ(America)で、アメリカのドイツ潰しやトランプ大統領誕生のリスク、BはイギリスのEU離脱で(Brexit)、Cはチャイナリスク(China Risk)で、Dはドイツ銀行(Deutsche Bank)である。好調だったドイツが一気に苦境に置かれつつある。これはヨーロッパ経済、ひいては世界経済に与える影響は大きい。次の首相が誰になるかも興味深い。(おわり)
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