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2016-07-05 06:47

森喜朗・五輪委員長に感じる“危うさ”

杉浦 正章  政治評論家
 森喜朗は面白い政治家で好きなタイプだが、現在78歳。東京オリンピック開催時は83歳。過去最年長の五輪組織委員長だが大丈夫か。組織委は競技場設計見直し、エンブレムの白紙撤回と大失態が続いたまま、誰も責任を取らない。おまけに競技場に聖火台がないことに気が付かない。そうこうするうちに森は7月3日に東京・代々木の体育館で行われたリオデジャネイロ五輪の代表選手団の壮行会で、見当違いの大演説をたれた。「国歌を歌えない選手は日本代表じゃない」と300人の選手たちに延々と説教したのだ。ところが、会場のアナウンスは国家斉唱でなく、国歌「独唱」であり、壇上のモニターも「独唱」とあった。独唱なら、普通は大声出して歌わない。森の早とちりに勘違いが加わった大失態だ。こうケチが続いては、東京オリンピックそのものが危うく感ずる。自由と規律と民族のやる気と熱気を感じさせた前回の東京五輪と比較して、全く気合いが入っていない。

 新聞は森の“誤解”をろくろく報道しない。ネットには批判が炎上状態だ。朝日だけは、森が苦言を呈したことを報じた記事のなかで「場内では、みんなで声を合わせて歌う『斉唱』ではなく『独唱』とアナウンスされ、ステージ上のモニターにも『独唱』と表示されていた」と正確に伝えている。読売は「森氏は口をもごもごしているだけではなくて、『国歌を歌って』と注文もつけた」とだけ報じ、本質を突かない。産経も「森喜朗会長が『国歌を歌えない選手は日本の代表ではない』と苦言を呈する場面があった」とだけ。両紙ともこの場合は「誤報」に等しい扱いだ。森の発言はまず「先ほど国歌の斉唱をやってくれました」と根本的に誤解している発言。次いで「どうして皆国歌を歌わないのか」に始まって、「サッカー女子は優勝したとき、涙を流しながら君が代を歌った」「ワールドカップラグビーでも歌った」と過去の例を挙げた。次いで「選手の皆様にお願いしたいのは、口をもごもごさせるのではなく、声を大きく上げて、国歌を歌って欲しい。日本国民が見ている。国歌を歌わないような選手は日本代表ではない」と叱咤したのだ。この発言から見ると森は場内アナウンスが「独唱」と明言し、陸上自衛隊中央音楽隊陸士長・松永美智子が独唱に入った事実関係を聞き逃したか、知らなかったことになる。恐らく事務当局は森に式次第くらいは説明していたと思われるが、紙だけ渡したのかも知れない。いずれにしても「独唱」のアナウンスがあり、独唱が開始された後の演説だから、森の「斉唱」判断は大きく間違っていたことになる。

 かつて、テレビで米スーパーボウルにおけるレディー・ガガの国歌独唱を見たことがあるが、選手は口をもごもごさせる者、胸に手を当てて歌う者、瞑目する者と多様な対応をしていた。それでいて国歌に敬意を払っている様子はありありと分かり、感銘を受けるものがあった。また日本においても国歌の斉唱ほど、会場の一体感を生み、すがすがしさを感じさせるものは無い。壮行会の場合は、もちろん「斉唱」のアナウンスがあれば歌うべきだが、選手たちの様子を見れば、「独唱」の邪魔にならないように口をつぐむか、口をもごもごするしかなかったであろう。国歌に敬意を表さないような振る舞いなど全く見られなかった。それを「国歌を歌わないような選手は日本の代表ではない」などといきなり怒鳴りつけられては、立つ瀬がないのは選手の方だ。しらけたムードが会場全体を漂った。壮行会は選手を元気づけ、鼓舞するためにある。それを委員長から無体な怒られかたをしては、意気も消沈する。全く場違いな発言であった。

 どうも森は過去の発言を見ても問題が多すぎる。生きている坂田道太をテレビで「亡くなられた坂田さん」と発言したり、IT革命を「イット革命」。2014年にはソチ・オリンピックで浅田真央が転倒したことに関して、「見事にひっくり返った。あの子、大事なときには必ず転ぶ」と切り捨てた。坂田やITのケースはご愛敬だが、真央批判には日本中が憤った。永田町では失言や愚行を繰り返す政治家を「ダダ漏れ」というが、森はそれほどではないにしても、競技場とエンブレム問題をみれば、どこか漏れているのではないかと思いたくなる。歴代委員長を見ても、年齢は東京オリンピックの安川第五郎の78歳が最長老だ。総じて40代後半から70代前半までだ。年齢より本人の能力が重要なことは言うまでもないが、こう不祥事が続くようでは、オリンピックが順調に行われるかどうか心配になってきた。
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