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2016-06-21 10:42

米中摩擦にダマされてはいけない

田村 秀男  ジャーナリスト
 6月6、7日の両日、北京で開かれた米中戦略・経済対話の経済分野の最大のテーマは、中国の鉄鋼過剰生産問題だった。貿易制裁を武器に大幅減産を迫るルー米財務長官に対し、中国の楼継偉財政相は「鉄鋼業界の52%以上は民営企業が占めるため、厳しい原産割り当ては無理」と強弁した。「民営企業」とは看板に過ぎず、実質的には共産党が支配しているくせに、民間に口が出せないとはよくぞ言ったものだ。揚げ句の果てに「リーマン・ショック後は、経済成長を押し上げたとして世界が中国に感謝したが、今では世界が中国を名指しで批判している」とぼやいた。

 1970年代から90年代前半にかけての日米通商摩擦では、米側の一方的な無理難題に対し、日本側は「日米関係を壊さないように」を合言葉に、多くのケースで米側に譲歩してきた。その日本に比べると、さすがは口舌の徒の国だ。スプラトリー(中国名・南沙)諸島の埋め立てに関する王毅外相の強引な正当化論法と同様、黒を白と言いくるめて譲らない。米国は、党が支配する異形の市場経済であっても、自由貿易ルールに取りこめると踏んだが、手に負えない怪物と化したのだ。が、ワシントンが後悔しており、対中強硬策をとる、制裁すると見たら甘すぎる。共和党の大統領候補が確実になっているドナルド・トランプ氏は中国製品への関税を大幅に引き上げると口にはするが、利益になると見ればすぐに取引に応じる実利主義者である。

 同じく、民主党の指名を確実にしたヒラリー・クリントン氏も口では対中批判しても、裏では中国系からの献金を受けている。オバマ政権当時の国務長官時代でも、内輪の会合で「米国債のスポンサー中国に頭を下げなければいけないのか」とぶつぶつ言いながら、公式の場では満面の笑みで米中友好に励んでいた。中国は依然として、米ビジネス界にとっては巨大市場なのである。それを見越した北京側は今回の対話でも、環境ビジネス権益などのニンジンをちゃんと用意している。グラフは中国の鉄鋼生産と鉄鋼製品の対日輸出平均価格の推移である。世界の鉄鋼の過剰生産能力は7億トン超で、そのうち中国の過剰分が約6割、4億トン超を占めるという。李克強首相は今年初め、1億~1.5億トンを5年間で削減するよう指示したが、実際には逆に増産していることがわかる。

 対日輸出価格は3年前から急落を続け、半値以下に落ち込んでいる。対米輸出平均価格は下がってはいるが、その幅はなだらかで、最近はむしろ上昇気味である。米国国際貿易委員会(ITC)は伊勢志摩サミットが開幕した5月26日、中国の大手鉄鋼メーカーとその米国支社計40社に対し、関税法違反容疑で調査に入ったが、知的財産権侵害でありダンピング容疑ではない。日本政府は「米中摩擦」に気を取られず、さっさとダンピング容疑で毅然(きぜん)とした行動を中国に対しとるべきだ。
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