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2016-04-22 06:26

タックスヘイブンがサミットの焦点に

杉浦 正章  政治評論家
 世界的な「パナマ文書疑惑」が来月26、27日のサミットに向けて最高潮に盛り上がる流れを見せている。プーチン、習近平、キャメロンら政治家のみならず、租税回避地に設立された約21万4000社の会社名や株主、役員などの企業データベースを国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)が5月前半に公表する方針だからだ。これまでもサミットは事務当局レベルで租税回避問題を取り上げてきたが、今回は首脳レベルの議論と意見集約に“昇格”せざるを得まい。効果の伴う国際的な課税逃れ対策に向けて議長役の首相・安倍晋三の手腕が問われる事態となってきた。大胆で実効性のある方針をいかに打ち出すかが焦点だ。パナマ文書をめぐる報道でいつも思うのだが、世界を直撃して、資本主義の根幹を揺さぶる文書がどのような経路で南ドイツ新聞に廻ったのかが全く不明な点だ。筆者がすぐに思い浮かぶのは、ロッキード事件の発端となった「誤配事件」である。ロッキード社にとっては絶対、部外者には見せられない極秘書類の小包が、なぜこともあろうに多国籍企業のお目付け役である米上院外交委多国籍企業小委員会(チャーチ委員長)の事務所に届けられたのだろうか。現在でも不明だ。筆者は田中角栄と仲が悪い国務長官・キッシンジャーがCIAを使って行った陰謀であったと思うが、証拠はない。アメリカはそうした細工を極めて巧妙にやる国である。

 パナマ文書もCIA説がある。なぜなら米国や同盟国日本の政治家名は一切出さずに、専ら中国、ロシアの指導層を狙っているように見えるからだ。キャメロンや辞任したアイスランド首相はお飾り程度の意味しかない。怒り心頭に発したプーチンは「政権への不信感を社会に植え付けて、ロシアを内部から揺さぶる試みだ」と述べているが、親しい友人の名前ばかりが挙がっているのが不思議だ。クロだと思う。慌てふためいたのは習近平だ。自ら先頭を切って腐敗撲滅運動と称する政敵撲滅を推進してきた張本人習の義兄が引っかかっては、どうしようもない。タックスヘイブンの場合親戚とか友人とかの名前が出るが、皆本人とみた方が分かりやすい。実際に本人の代わりにやっている事であろうからだ。習近平はお得意の言論統制に出た。NHKの報道はシャットダウンされるし、ネットの検索も不可能だ。姉の夫が関与しているから、中国語の義兄である「姐夫」での検索も不可能だ。中国の場合は富裕層が海外に資産を移して、将来政治状況が変われば逃亡しようとしているという社会的構造があり、「義兄」は氷山の一角に過ぎない。プーチンも習近平も民主主義国であったら致命的なスキャンダルであっただろう。

 G7に関連してくるのはキャメロンだ。亡父のファンドに投資して利益を上げたことを認めたキャメロンに対する国民の辞任要求の声は高く、満身創痍(そうい)でのサミット出席である。ただ本人が法的責任を問われる可能性は少なく、辞任に到る確率も低い。キャメロンはタックスヘイブン問題では企業の情報開示の推進など課税逃れ対策を強化しようとしている。結局パナマ文書が提起した問題は、議長・安倍がオバマとタッグを組んで推進するべき問題であろう。いくらキャメロンが引っかかっているからと言って手を抜くようなことがあれば、世界中の目がその動向に集中しているときである。いいかげんな対応ではサミットの存在感を問われる結果となりかねない。いかにストライクのボールを投げるかが問われている。

 既に主要20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議は4月15日、タックスヘイブンを使った課税逃れ対策を共同声明で、(1)国際的な情報交換の仕組みにすべての関係国が遅延なく取り組む、(2)銀行口座などの情報を交換し合う枠組みに参加するすべての国が、2017年のG20首脳会合までに一定の導入水準を満たすことなどを求めている。G7はG20の動きを支持すると共に、金融口座の情報を自動的に交換する協定の締結を目指して一致した行動をとる流れとなりそうである。各首脳の発言も極めて注目されるところであろう。問題は、新たな規制策が打ち出されれば金融マフィアはその裏をかく、といういたちごっこがこれまで繰り返されてきたが、今後これにどう歯止めをかけるかである。いかにして大胆で実効性のある方針を打ち出すかが焦点だ。翻って日本との関わり合いが5月の発表でどの程度出るかメディアは固唾をのんで注目している。地方創生相・石破茂はテレビで政治家などの名前が出ないことについて「5000万円を超える所得を海外に持つ人は確定申告書に添付する必要があり、これが利いている」と述べている。しかしタックスヘイブンを活用している企業名や役員の名前が公表されれば、当然政治家への献金が問題となり、道徳的にも指弾される可能性がある。また北朝鮮との関係が問われる企業名が出される公算が強く、これも問題化しよう。
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