国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「百家争鳴」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2016-04-02 12:38

内需を成長軌道に乗せるまで増税は凍結すべきだ

田村 秀男  ジャーナリスト
 春闘が盛り上がらない。経営側がチャイナリスクの高まりなど、景気の先行きが不透明なため賃上げに慎重になっていることが主な理由に挙げられるが、それは経団連での話だ。全雇用の7割を占める中小企業を含めた全産業でみると、デフレ圧力が主因である。その事態を招いたのは、政府の消費税増税と緊縮財政によるものだ。そのことは、米国の著名経済学教授の「ご託宣」を請うまでもない。筆者は日本型デフレについて、消費者物価の下落幅よりはるかに大きく賃金が下がることが特徴だと、10年近く前から定義してきた。日本経済はその「法則」に囚われている。

 目を凝らしてみると、賃金の下落傾向はリーマン・ショック後の2010年からかなり緩やかになる一方、物価も横ばいに近くなっていた。物価が横ばいで賃金が上がり続けば、上記の日本型デフレから脱する兆しとも評価できたのだが、14年からは物価は上がっても実質賃金は下がるという賃金デフレに陥った。非正規雇用を含む全従業員と正雇用に分けて賃金動向を追うと、賃金デフレ圧力は正社員では弱く、非正規を含める全雇用者で強く働き、非正規雇用の急増が賃金デフレを加速したことがわかる。

 そんなトレンドのもとで政府は、14年4月に消費税率引き上げに踏み切った。増税とともに消費者物価は上昇、15年に物価はさらに上がっても全従業員の平均賃金は横ばいだ。アベノミクスは異次元の金融緩和によって円安・株高を演出した。しかし、円安トレンドは長続きせず、円高に転じると株価は急落する。増税によって家計から所得を政府が吸い上げるし、企業収益増で税収は増えた。歳出削減にこだわる政府は、民間から取り上げた所得を民間に還流させない緊縮財政路線を強めている。その結果、民間の需要は萎縮するのだから、企業は雇用の改善や賃上げをためらうのは当然の帰結である。政府が需要を減らしておいて、賃上げを迫ったところで、企業側がおいそれと応じるはずはない。

 今、安倍晋三政権が唱えているのが「1億総活躍社会」である。同一労働・同一賃金によって賃金格差を縮小させる。介護離職をなくし、待機児童問題を解消し、家庭にいる主婦が外で働けるように環境を整えるという発想は支持できる。意思と能力のある個人が制度的・社会的制約・差別を受けずに自由に働けるようにする。それは自由な国家の政府として当然の役割だが、デフレ下の増税は真逆の結果を招く。低賃金の非正規労働、待機児童、介護離職問題は緊縮政策の産物なのである。安倍首相が消費税率10%への引き上げを単に1、2年の延期で済ますだけなら、経済的な意味合いは薄い。金融緩和と一体となった財政出動によって、内需を成長軌道に乗せ、非正規雇用、介護、保育の分野にもカネが回るという好循環を作り上げるまで、増税を凍結すべきだ。
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『百家争鳴』から他のe-論壇『百花斉放』または『議論百出』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
東アジア共同体評議会