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2016-03-30 07:00

ナイヤガラ瀑布は誰も止められない

杉浦 正章  政治評論家
 ナイヤガラ瀑布の流れは、誰も止められない。だいいち誰も止めようとしていない。首相も、だ。予算成立で、政局は雪崩を打って衆参同日選挙に向けて走り始めた。3月29日の記者会見は首相・安倍晋三が衆参同日選挙を止める最後のチャンスであったが、「頭の片隅にもない」と述べるにとどまった。本当は「やるか、やらないか」と「やるには、どうするか」で頭の中が98%いっぱいなのに、「片隅にもない」とは傑作だ。しかし、会見ではそのいっぱいの頭の中の傾向をちらりと垣間見せた。それは「予算の成立こそ最大の景気対策と申し上げてきた。早期に執行することが必要だ。可能なものから前倒し実施するよう、麻生財務相に早速指示する」という発言だ。明らかに選挙を意識した景気対策である。安倍はサミットを前に予算とは別に秋にも補正予算の編成も含めた経済対策を打ち出すことを考慮しているようであり、サミットでは財政刺激策の必要で一致する流れとなってきている。こうした状況を見れば、走らせておいて参院選だけの選挙を選択する余地は極めて少ない。シングルで参院選に敗北した場合、久しぶりの“政局”が待っているからだ。

 首相の姿を読んでか、こっそり首相からささやかれたからか、これまでダブルに反対だった公明党代表・山口那津男が、筆者が「反対論の公明はしょせん“転ぶ” 」と予言したとおりにすぐ転んだ。山口はダブル選挙について「解散権を持っているのは首相だ。安倍が決断すれば、受けて立たざるを得ない立場だ」と述べ、安倍の判断尊重に大きく転換した。やっと支持母体の創価学会のダブル容認論が伝わったかのようである。山口は「仮に打診があれば、その理由や勝てる可能性、国民に説得力があるかを真摯(しんし)に相談したい」とまで述べたのだ。しかし未練たらしく「ダブル選は望ましくないと言ってきた。(自民党との)選挙協力がしづらくなるし、政権すら失ってしまうリスクが高い」と付け加えたが、引かれ者の小唄のように見える。一方、幹事長・谷垣禎一も変わった。これまで谷垣は参議院議員会長・溝手顕正が正直にも「ダブルに賛成」と述べたことに対して、「参議院側の願望も含めての話ではないか。ばらばらに、いろいろな発言が出てくるのはいかがか」と苦言を呈するなど慎重だった。ところが、3月29日の記者会見で衆参同日選に関し「同日選や衆院選については現在、口をきかないことにしている。幹事長が『こうだ、ああだ』と言い出したらしようがない。私は慎重だから今は発言を差し控える」と述べた。口を利かないというのは、党内が走り出すことを認めるということなのだ。

 こうした与党幹部の言動を固唾をのんで観察している野党が「すわ解散」と踊り出さないわけがない。民進党の岡田克也代表に到っては、もはやとどまるところなきがごとく、選挙一色の様相だ。結党後の記者会見で「衆参ダブル選の可能性があるので、候補者擁立をさらに進めていきたい。新しい党になったので、公募も新たに行いたい」と言明。両院議員総会でも「結党の勢いを衆院補選や参院選につなげたい。とにかくしっかり結果を出していこう」とハッパをかけた。「出戻り新党」と揶揄(やゆ)され、共同通信の調査でも、民進党について「期待する」が26.1%、「期待しない」が67.1%。「結党の勢い」が何処にあるのか分からないが、とにかく括弧付きの「結党の勢い」なのだ。しかし民進党には大きなジレンマがある。政策上のジレンマだ。共産、社民と共同で安保関連法廃止法案を提出して、これを軸にダブルを戦おうとしていることだ。シールズなどという何も知らない若い衆をだまして動員し、国会前を占拠して、「安保反対が国論」とばかりに示威行為をするのが基本戦略だ。これが成り立つかどうかだが、極東情勢を展望すれば時代錯誤もいいところである。

 筆者は、安保法制の抑止力がなければ、日本は北朝鮮が本気で露呈させる「極東の危機」を乗り越えられないだろうとみる。そしてその危機は、今そこにあるのだ。安倍が記者会見で「先般、北朝鮮が弾道ミサイルを発射した際、従来よりも日米はしっかりと情報を共有しており、体制整備も、以前より格段に進歩した。これはハリス太平洋(軍)司令官もそう述べている。まさに助け合うことのできる同盟は、その絆を強くした。その証左であろうと思う」と言明したが、まさにその通りである。日米の信頼関係、とりわけプロである制服組のそれは、安保法制により大きく進歩した。これに異論を唱えて選挙に勝てるだろうか。今後北は3月31日からの「核サミット」に合わせて狂気の核実験をしかねない状況があり、ミサイルも狂ったように撃ちまくる。民主党は、一部で臆測されているように金正恩が「核サミット」に合わせて核実験をやりかねない状況を何と見ているのだろうか。日米協調で北の暴挙を阻止する安保法制に反対で「日本の安全は確保出来る」と見ているのだろうか。まさに反対論は国民の生命財産無視の観念論に過ぎない。こうして流れは滔滔(とうとう)とダブル選挙に向かっているのだ。自民党幹部の中には総裁特別補佐の下村博文のように「4月24日の北海道5区の衆院補選で自民党が敗北した場合は、ダブルは困難になる」などと若い記者をだます発言をする向きがいるが、気は確かかといいたい。同補選はまず現在リードしている自民党が勝つと思うが、負けてもダブルの流れには影響は出ない。そもそも小局が大局を左右したためしがない。木の葉を見て森を見ない浅薄なる“読み”であろう。
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