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2016-02-03 11:11

「甘利氏辞任問題」の法的評価

加藤 成一  元弁護士
 「TPP」交渉等で実績を上げた甘利明前経済再生担当大臣は、建設会社と都市再生機構との補償交渉に関する「金銭授受疑惑」に関連して、1月28日秘書に対する監督責任など政治的道義的責任を取って辞任した。これに対し民主党など野党は、甘利氏に「あっせん利得罪」などの刑事責任も追求する構えである。平成12年に成立した「あっせん利得処罰法」は、国会議員等が業者から請託を受け、職務権限に基づく影響力を行使して、公務員に便宜を図るようあっせんした報酬として、業者から金銭等を受け取ることを処罰する法律である。本罪の犯罪構成要件は、(1)国会議員等が業者から請託を受けたこと(2)職務権限があること(3)「あっせん」したこと(4)報酬を受けたこと、の4つである。本件に関する週刊誌報道の内容と甘利氏本人の辞任記者会見の内容をそれぞれ検討すると、(1)の「請託」については、甘利氏本人または秘書が、建設会社の総務担当者から、請託すなわち都市機構に対する口利き(「あっせん」)の以来をうけたかどうかにつき、甘利氏側は否認しており、両者の言い分が食い違っている。のみならず、口利きの以来を認定するに足りる具体的客観的証拠が建設会社の総務担当者などからも提出公表されていない以上、甘利氏本人または秘書につき口利きの以来をたやすく認定することはできないであろう。

 (2)の「職務権限」については、国会議員ではあるが、国土交通大臣所管の都市再生機構とは所管の異なる国務大臣の職にあった甘利氏につき、「あっせん」に関する職務権限の存在を認定することは困難することは困難であろう。(3)の「あっせん」については、甘利氏側も都市再生機構側もともに否認している。甘利氏本人は都市再生機構とは面談等の接触をしていない。のみならず、甘利氏本人が「あっせん行為」をしたことを認定するに足りる具体的客観的証拠が建設会社の総務担当者などからも提出公表されていない以上、甘利氏本人につき「あっせん行為」を認定することはできないであろう。秘書の「あっせん行為」については、秘書と都市再生機構側が、本件につき何度も面談したとされているが、秘書が、たとえば、都市再生機構側に、「案件の問い合わせをする」「案件の事情説明をする」「建設会社の意向を都市再生機構側に伝える」「都市再生機構側の意向を聞く」「その後の経過説明を求める」「今後の見通しを聞く」などは、「あっせん」に該当しないであろう。「あっせん」とは、具体的に、都市再生機構をして、建設会社のために便宜を図らせ、利益を与えるという故意(主観的違法要素)が必要である。なお、仮に、秘書について「あっせん行為」が認定された場合でも、秘書と甘利氏との間に「共謀関係」が証明されなければ、甘利氏が「あっせん利得罪」に問われることはない。しかも、仮に、「あっせん行為」に関する「共謀関係」が証明されたとしても、それは四つの犯罪構成要件の一つに過ぎない。

 (4)の「報酬」については、「あっせん行為」と報酬との間に、対価関係があること、すなわち「賄賂性」の認識が必要である。甘利氏本人が建設会社の総務担当者から受け取ったとされる合計金100万円については、客観的には政治資金として処理さあれ、政治資金収支報告書にも記載がある。同報告書への記載は、「賄賂性」の認識を滅殺させる状況証拠と言えよう。なぜなら、政治資金として公開されている以上、いわゆる「裏金」ではないからである。秘書が受け取ったとされる金500万円については、政治資金収支報告書にそのうちの金200万円の記載があり、少なくとも、金200万円については、同様の理由で「裏金」とは言えず、「賄賂性」の認識が滅殺されるであろう。秘書が費消したとされる残余の金300万円については、建設会社側への返還処理または受領を拒否された場合は政治資金収支報告書の修正の余地もあろう。

 「あっせん利得罪」の成立には、以上4つの犯罪構成要件の一つでも欠いてはならず、すべてを充足する必要がある。上記検討の結果、少なくとも、甘利氏本人については、そのいずれの要件も充足しているとは言い難いから、「あっせん利得罪」の立件は、不可能または著しく困難であろう。民主党など野党は、「甘利氏辞任問題」を奇貨とし、これを人質にとって、国民生活に直結する平成28年度予算案等の審議を拒否したり、その成立をいたずらに引き延ばすようなことがあってはならない。仮にも、この問題をもっぱら政局に利用するようなことがあれば、国民から手痛いしっぺ返しを受けるであろう。
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