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2016-01-07 07:03

徹底制裁で5月党大会での金正恩を窮地に置け!

杉浦 正章  政治評論家
 ヒットラーというよりもこの独裁者はスターリンの真似をしていると思われる。スターリンこそは、ヒトラー以上の狂気を持ち、ヒトラーの恐怖政治と比べても何ら見劣りしないばかりか、その殺戮(さつりく)した人間の数ではヒトラーをはるかに上回る。前世紀最大の狂気の殺戮者スターリンは、水素爆弾の開発で米国に追いつき、米国を恫喝した。北朝鮮第一書記・金正恩も側近・張成沢の処刑に始まって軍幹部を次々に粛正、今度は自称「水爆」を開発、実験した。狂気の独裁者の心底は唐突性と意外性に貫かれており、その行動は予測不能である。独裁者を押さえ込む唯一の道は「国際正義」を貫く正攻法しかない。いまそれが国連安全保障理事会に求められる。理事会は北の水爆実験発表を受け、1月7日未明に緊急会合を開いた。国連憲章第7章は平和の破壊に対する行動を定めており、最終的には加盟国の軍事行動を求めている。おそらくこの規定に則り軍事行動を除く最大限の制裁を科することになるだろう。過去3回の核実験に際し、全加盟国は北朝鮮との武器取引禁止や、核・弾道ミサイルに関連した資産の凍結などの制裁を科してきた。2013年の3回目の核実験の際の決議は、「4回目の核実験にはさらなる重大な措置」を取ると警告している。

 「重大なる措置」がどのようなものになるかは予断を許さないが、安保理の報道機関向けの1月7日の声明は、北朝鮮による核実験を強く非難し、制裁強化のための新決議に向け、直ちに協議を開始する方針を打ち出した。中国もこの声明に異を唱えなかった。制裁は最大限の経済制裁や、船舶の「臨検」など厳しいものとなることが予想される。毎度のことだがここでの最大のポイントは中国がどう出るかである。北に対する制裁は常に中国による裏からの「横流し」で、その効力を減殺されてきた。過去に国連決議があっても国境の鴨緑江にかかる唯一の鉄橋は、物資を運ぶ貨物列車やトラックがひっきりなしに行き来しており、北は痛痒を感じないケースがほとんどだった。この中国と北の関係は米中対峙の構図が大きく作用している。

 中国は、北の政権が崩壊すれば米国との対峙は38度線から鴨緑江まで後退することになり、戦略上これは何としてでも避けたい。12月には北のモランボン楽団が中国入りしたが、公演は直前で中止になった。北のミサイルを誇示した公演舞台背景をめぐる対立が原因だったとされる。その後修復の動きが出て、年内には金正恩自身が訪中する可能性まで取りざたされていた。こうした動きに冷水を浴びせたのが、中国に事前通知をしないで実施した核実験である。中国国家主席・習近平はメンツ丸つぶれとなり、外務省副報道官の発言も「断固反対する」と厳しい非難に満ちたものとなった。外務省声明でも、従来は米国など関係国の動きをけん制して「関係国に冷静な対応を求める」という一文が入っていたが、今回は入れていない。

 これが意味するところは、激怒した習近平が日米韓など関係国と安保理である程度歩調を合わせる事を意味している。北への制裁で1番効くのがエネルギー源を絶つことである。日本が対米開戦に追い込まれた最大の要素でもあったが、その首根っこは今度は中国が握っている。北は大部分の石油の輸入を中国に頼っているから、中国が石油供給をカットすれば身動き出来なくなり崩潰する。しかし、中国がそれを徹底して行うことは、今回もあるまい。北を追い込み過ぎれば、金正恩の暴発はますます激しくなって、自国の極東における安全保障に影響が出るからだ。本当はオバマが一番しっかりしなければならないが、金正恩にはレームダック入りを狙われた側面がある。前大統領ブッシュの時も政権後半の2006年に北が初めて核実験をやっている。ブッシュは「北朝鮮への物理的攻撃ではなく、外交的な話し合いで解決していく」と述べたが、結果的には融和路線の足元を見られて、失敗した。したがって、オバマはまさかその二の舞いを繰り返さないと思うが、たかが銃規制の問題で涙を流すなど、精神的に追い込まれている感が濃厚である。ただでさえ中東とテロで手一杯のところを、オバマに誤判断されてはたまらない。首相・安倍晋三は“弱虫オバマ”の動きに注目すべきであろう。慰安婦問題での日韓合意も将来は極東安保に影響を及ぼす問題であり、相対的に北の孤立感を増大させたのであろう。

 金正恩が核実験を断行した理由で、最も説得力があるのが、5月に36年ぶりに開催される労働党大会である。金正日も開催しなかった党大会を成功裏に導くためには、超大型ブルドーザーによる牽引が必要なのであろう。それが自称水爆実験である。「近隣の韓国も日本も保有していない水爆を実験した。安保理常任理事国並みになった」と胸を張れるのは水爆実験なのだ。また労働党大会のスローガンは「経済再建」としている。水素爆弾は劣勢にある通常兵器を補い、軍事費全体のコストを下げる。軍事費を削減して、「経済再建」に回す口実にもなる。安保理決議はこの金正恩の狙いを逆手に取ることができる。後生大事にしている党大会に向け、核実験の代償がどれほど強烈なものになったかを知らしめるのだ。北の経済が息も絶え絶えのまま党大会を開催すれば、いくら北朝鮮でも「何とかして欲しい」というムードが横溢するだろう。厳しい経済制裁、それも党員が実感するような制裁を科せられるかどうか、がポイントである。安保理の正念場であろう。
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