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2015-10-20 05:20

中国のGDP“粉飾”の背景を探る

杉浦 正章  政治評論家
 何事にもアバウトな「慢慢的」(マンマンデー)の国民性がよく出ているのが、中国の国内総生産(GDP)の6.9%だ。産経によると7~9月期のGDPは「国家ぐるみの“粉飾決算”」なのだそうだが、当たらずといえども遠からじだろう。リーマンショックが起きようが、GDPは大幅成長を達成、上海株が大暴落しようが、中国だけは日本もうらやむ6.9%成長、などということがあり得るだろうか。欧米の専門家の分析だと実態はもっと悪化しているという見方が強い。マイナス成長説すらある。なぜわかり切った“粉飾”を重ねるのだろうか。これは共産党1党独裁政治がもたらす中国の社会構造に起因していると言わざるを得まい。おりから来週には共産党第5回全体会議(5中全会)があり、習近平体制は「経済に関する5カ年計画」で景気回復への強いメッセージを出さなければならないのだ。その基礎になるGDPは何が何でも高くなくてはならないのだ。

 6.9%というのは実に微妙な数字だ。国家統計局が「成長率は6.9%に下がったが、7%前後と見なしてよい」とマンマンデーなのは、政府の成長目標である7%は、党大会の論議の基礎となるがゆえに、必須項目であるからだ。なぜかと言えば、実態を発表したら、政権そのものの信頼性が揺らぐのであり、ボーイング300機注文で胸を張った習近平の“意図”が虚勢であることが分かってしまうからだ。日本など世界の専門家の予測は6.8%だが、これを上回るが7%には達しないという数字であり、そこに“意図”を感ずるのだ。中国では監査機関がないからGDPの真偽などは分からないし、これを詮索するような者がいれば、あっという間に逮捕監禁だから、そんなバカはいない。もともと世界の専門家の予測6.8%も指標に基づいて計算したものではない。おそらく中国当局の発表はこの程度を出してくるという推定なのであって、意味のあるものではない。まず第一に怪しいのは、GDPの発表が早すぎることだ。日本が3か月後、米国でも2か月後なのに、広大な領土と14億の人口の国が何で毎回半月で四半期ごとの数字を集計できるかだ。それも速報値ではなく確定値である。そこには詳細な計算の上にGDPを積み上げるのではなく、地方も中央も鉛筆なめなめエイヤッと決めてしまうマンマンデーがあるのだろう。とりわけ地方官僚は常に「良好な経済状況」を反映した数字を出さなければ、成績が悪いと中央からにらまれる恐れがある。立身出世への妨げになるという社会構造なのだ。

 もっと怪しいのは貿易統計が反映されていないことだ。貿易統計こそは、中国で信頼できる唯一の指標だ。相手国があるためごまかせないからだ。8月の輸出は前年同月比5.5%減。輸入は13.8%減だ。輸出の減少はともかくとして、輸入が10か月連続で大幅に減少したのは、紛れもなく購買力の落ち込みを物語るものであり、これだけ落ち込んでGDPがプラスというケースは、世界の主要国において前例がない。例えばリーマンショックで輸入が激減した日本のGDPはマイナス5%だったが、中国も同じように輸入が減って経済成長率はプラス9%だった。そこに“粉飾”を感じない企業経営者が日本にいるとすれば、社長失格だ。李克強指数というものがある。首相・李克強が「わたしは3つの数字しか信用しない」として、電力消費量、鉄道貨物取扱い量、銀行融資を挙げた。これはあまりに数字がずさんであるという世界各国からの批判に答えたものであるが、その3つの数字が“粉飾”であったら、李克強の発言はフェークであったことになる。現実に専門家の間にはその指摘がある。3つともGDPと同じで、悪名高き国家統計局の数字であるからだ。いまや欧米では李克強指数といえば、間違っていることの象徴となっている。

 他国の独自調査は妨害されないケースもある。ロンドンの調査社によると、実態は2014年が3.2%、15年が2.8%で、来年の予測は1.0%だという。ロイターの調査でも「実際は3~5%成長」という結果もある。日本の財界人も実態は4%程度とみるケースが多い。GDPの実態が過去も含めて政府発表の半分であるということが何を物語るかと言えば、世界第2の経済大国に“躍進”したことへの信ぴょう性である。「GDP1000兆円」自体が揺らぐことになるのだ。経済評論家の中には、習近平の任期である2023年までに、米国とのGDPが逆転するという見方があるが、バブル崩壊と経済失速は中国経済がこれまでのような成長をたどることが極めて困難であることを物語る。日本のバブルの際と同じように、一進一退を繰り返しながら深い停滞期へと落ち込んでいくのだ。したがって米中の逆転などはまずあり得ない。習近平は景気の原則を認め、「新常態」と称する構造改革の定着を目指すが、実際には「新異常事態」によるチャイナリスクの現状をどう克服するかの難題を突き付けられている。
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