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2015-10-15 04:46

「一億総活躍」が石破への重圧に

杉浦 正章  政治評論家
 首相・安倍晋三の打ち出した「一億総活躍」社会についてまさに群盲が象を撫でている。その先頭に立って撫でまくっているのが地方創生相・石破茂だ。「最近になって突如として登場した概念なので国民には何のことかという戸惑いが全くないとは思わない」と持ち前の回りくどい言い方で「分からない」と言っている。石破が相談を受けた形跡はないから、「分からない」のももっともだ。石破の発言はどちらかと言えば批判に傾斜しているのだが、それもどぎつくは打ち出せない。要するに中途半端の極みが石破の立場なのである。筆者に言わせれば、「一億総活躍」は戦争中の「進め一億火の玉だ」とは全く違うが、国民を鼓舞する意味では類似性がある。デフレ脱却目前というのに、まだデフレマインドが残っている経営者を鼓舞して、投資を促し、無尽蔵とも言える労働力である女性や高齢者を鼓舞して、これに働く場を提供する。要するに、久しぶりに政権が打ち出した国民に自信を回復させる政策に他ならない。久しぶりというのは、池田勇人が60年安保闘争で荒廃した国民の目を、一挙に「10年間の所得倍増」で転換させたのと政治的にはそっくりだからだ。池田は高度成長を活用したが、首相・安倍晋三は残念ながらその環境にはない。しかし、「一億総活躍」が少子化、高齢化社会を目前にして、この流れに打ち勝ち、国民に自信を回復させる効果を狙ったことは間違いない。

 これが全く分かっていない民主党代表・岡田克也は「一億総活躍社会の名前は躍るが、具体的な政策がどれだけ準備されたかは疑問であり、次々目先を変えているとしか思えない」と批判するが、その前に問いたい。民主党政権で国民を元気づけようとする政策が一つでもあったか。株価を上げようなどと言う発想が一度でもあったかと言いたい。幹事長・枝野幸男も「1億なんとかなど、訳が分からない」と頭から唾棄しているが、この人物は重箱の隅をつつくことを得意とするが、大局で膝を打つような発言をしたことがない。分からなければ分かる努力をしなければならないが、八百屋で鮟鱇は売っていないから無い物ねだりはやめておく。かつて民社党委員長・春日一幸は政治の要諦を「理屈は後から貨車で来る」と述べているが、首相たるもの大きな方向を打ち出すだけでよい。池田が所得倍増、佐藤栄作が沖縄返還、田中角栄が日中国交回復。首相たるものこれらの言葉を唱えるだけでよいのだ。細かいことは後から貨車でやってくる。その意味で安保法制を成し遂げた安倍が、今度は「一億総活躍」で野党の提起した安保法制の不毛の議論を経済に転換させ、国民に「光は見える」と政治の向かう方向を明確に提示しただけで、十分意味があるのだ。内閣支持率がいち早く上昇に転じたことからも、国民は見るところを見ている。

 一億総活躍相・加藤勝信は10月14日、「一億」について基本概念を述べている。加藤は、「国民一人一人が職場や地域社会、家庭で、今より一歩前へ踏み出していこうという思いを持っていただけるかどうかに、すべてかかっている」と述べた。要するに、長年に渡るデフレで「なにをやってもダメだ」と意気消沈した国民に「元気を出して一歩踏み出そう」と言っているのだ。そこで当初から指摘されているのが、「地方創生」と「一億」のバッティングだ。たしかに少子化対策や高齢者対策などがかかわるから、やることは同じだ。安倍は屋上屋を重ねたことになるが、これは石破の側にも原因がある。田中角栄は佐藤に幹事長を外されたとき、都市政策調査会を作って「都市政策大綱」を打ち出し、政権の基盤を作ったが、石破ははっきり言って何をやっているのか分からない。「総論は出来たから次は各論だ」というが、筆者のようにらんらんと目を光らせて政治を見ている者でも、石破の言う「総論」が何なのか分からない。要するに、一言で形容するキャッチフレーズがないから、方向性が定かではないのだ。

 だから安倍は馬を石破から加藤に乗り換えたのだ。安倍は14日加藤に政策のとりまとめを指示しており、「一億」での司令塔は、これから加藤が任されることになる。石破は最近テレビに出まくっており、ここで聞かれることは可哀想にも「なぜ留任したか」に絞られている。全部のテレビを見て克明にメモを取ったが、石破の多弁なる言い訳から浮かび上がるのは、中途半端な“苦悩の人”の姿しかない。石破はテレビで、安倍が下野して4年以上政権構想を練ったことと比較して「最近どんどん自分が消耗していくことが分かる。そのことに言い知れぬ恐怖感みたいなものを感ずる」と述べた。要するに、下野して政権構想を練った方がよかったかという迷いがあるのだ。この男は内心を吐露して正直であると思うが、それなら派閥を作ったのだから、下野して戦うべきときであったのだろう。いずれにしても石破がポスト安倍の最右翼であることは確かだが、先にも書いたとおり、出る杭は水没寸前まで打たれるのである。冒頭書いたように当分中途半端な「苦悩の人」でいるしかないのだろう。


 
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