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2015-09-11 06:19

戦う石破と禅譲の岸田の戦いが軸

杉浦 正章  政治評論家
 号砲は「ドン」とならなければならないが、なにやら「プシュッ」と湿った花火のように音がくすんでいる。しかし安倍が再選を果たした途端に「ポスト安倍」というのだから、自民党は面白い。今のところ手を挙げたのは地方創生相・石破茂だけだが、ライバルは外相・岸田文男だ。当面はこの2人を軸に展開する流れだろう。基本は岸田が禅譲狙いなのに対して、石破は戦い取る姿勢だ。しかしもう1人有力候補がいる。「ポスト安倍」は「安倍」なのだ。3年の任期中のどこかで行われる解散・総選挙で安倍が勝てば、党則を改正して3期9年もあり得ない話ではない。くすんだ花火は、手を挙げた幹事長・石破茂に勢いがないからだ。派閥を結成するなら数が勝負だが、総裁選推薦人の数20人がやっとでは印象が悪い。少なくとも主催する「無派閥連絡会」の40人を確保することなど戦略のイロハのイだ。安倍の心胆はこれでは寒くならない。自民党幹部は石破の挙兵について「遅いし、早い」と述べているそうだが、実に言い得て妙だ。

 「遅い」というのは、今まで何をもたもたしていたかと言うことであろう。地方創生相という伴食大臣をあてがわれても、田中角栄ならこれを逆手にとって頭角を現しただろう。田中は佐藤栄作に幹事長を外されて、冷や飯を食うかに見えたが、自民党内に都市政策調査会を作って、列島改造を世に問うた。石破はそれから半世紀たって列島の再改造が必要なときなのに、絶好のテーマを逃した。政策なき立候補では、国民に何をする人なのかが不明だ。「早い」と言うのは、何で政権を挙げて取り組む安保法制が終盤に入るこの時に旗揚げかと言うことだ。そこには個利個略が見られる。政権というのはどんな安定政権でも「絶対安定」と言うことはあり得ない。むしろ「寸前暗黒」といって、いつ倒れるか分からない均衡の上に成り立っている。自民党を巻き込む大疑獄が発生したり、首相が病気で倒れたりすれば、すぐに後継選びが必要となる。石破が「早い」のはその万が一に賭ける必要があると感じたからであろう。まさか10月の内閣改造を前に安倍に向けて「厚遇」のけん制球を投げたとも思えない。時の首相に反旗を翻した以上、入閣しないのは常識というか、憲政の常道だろう。

 では、「ポスト安倍」で「安倍」以外の総裁候補とみなされるのは誰かというと、一強多弱の政治状況が物語るだけに候補は少ない。2012年の総裁選で出馬した石破茂、安倍晋三、石原伸晃、町村信孝、林芳正のうち町村は死去、林はもともと無理。石原は総裁選に出た存在感は全く失せている。失言癖もたたったのか、当時40人いた派閥も14人に減り、今や落ち目の三度笠だ。この結果、石破と岸田が軸となるが、ダークホースで幹事長・谷垣禎一の目もないわけではない。万一の場合に党内をまとめるには、人格、識見、経歴からみても谷垣が抜きん出ている。70の年齢など問題ではない。それでは、石破と岸田のどっちが強いかと言えば、通常の総裁選挙で決める場合は、石破だろう。石破は前回の総裁選挙の地方票を含めた1回目の投票で、199票を獲得して1位、141票の安倍を大きくリードしている。国会議員での決選投票でも89票を獲得、108票の安倍をヒヤリとさせた。石破はもっと強くなっている可能性がある。というのも幹事長時代に石破は総裁公選規定を地方票重視の制度に変更している。内容は決選投票に地方票を加算し、地方票を国会議員票と同数にするというもので、これが実施されれば石破が有利だ。

 一方で禅譲路線に傾斜しているのが岸田だ。忠勤に励んでいるうえに、野田聖子立候補問題で安倍に「うい奴よのう」と、思わせたからだ。岸田派最高顧問・古賀誠の“魔手”が若手議員に及んで、野田の推薦人に流れるのを懸命に防いだのだ。何と古賀が若手を集めようとした時間に合わせて会合を呼びかけて、たがを締め、20人の推薦人を獲得できなくしたのだ。岸田は石破とまともに戦った場合、地方票が物を言う選挙で勝てるかどうかは予断を許さない。逆に安倍が禅譲すると言えば、一挙に有利になる可能性がある。したがって石破は「安倍3選」の阻止に出る可能性が強いが、岸田は我慢の子で3戦を認めて、禅譲を狙うかも知れない。まるでポスト佐藤をめぐって禅譲路線の福田赳夫と田中角栄の戦いにそっくりの構図となる。
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