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2015-08-27 06:36

バブル崩壊がもたらす中国内・外政の激変

杉浦 正章  政治評論家
 中国の株価大暴落に端を発した世界同時株安が意味するものは、中国のバブル崩壊が早くも現実化したということだ。もう中国はかつての高度成長期に戻ることはなく、米国や日本が歩んできた低成長時代に移行する。しかし米国や日本の高度成長は極端な貧富の差をもたらさなかったが、中国のバブル終焉は則ち「格差の置き去り」そのものである。1億の富裕層と12億の極貧層の格差だけが残ったのだ。政治面でこれが意味するものは、なにか。内外政共に波乱の推移であろう。国内では暴動が頻発し、少数民族が先鋭化しよう。外政では、国民の目を海外に向けるために中国国家主席・習近平は何をするか分からない。東・南シナ海は警戒態勢に入るであろう。日本にとっては、抑止のための安保法制の早期成立などイロハのイとなった。

 まずどうしてバブルが崩壊し、リーマンショックに勝るとも劣らない「上海ショック」が生じているかである。言うまでもなく端緒は8月11日の人民元の切り下げである。世界中が「そこまでやるか」と改めて中国経済の実態を認識し、株価の下落傾向を導いた。これに追い打ちをかけたのが中国で唯一信頼すべき経済指標である英国調査社による「購買担当者景気指標」である。中国政府は1~3月のGDPを7%台と発表しているが、これを経済界では「李克強指数」と呼び誰も信用していない。日本精工の社長・内山俊弘は8月26日の記者会見で「7%というのは実際は4%前後かも知れないと言うのが実感だ」と、筆者のかねてからの予言を裏付ける発言をした。これを裏付けているのが21日発表の英国調査社の指標で、6年5か月ぶりに分岐点の50%を割り込み、47.1%となった。この数字は2008年のリーマンショック直後の数字と酷似している。これが世界の投資家を市場から逃避させる最大の要因となった。以後とどまるところを知らない世界同時株安となっているのである。

 バブルが弾けるということは何を意味するかだが、紛れもなく中国経済が怖い物知らずの高度成長期からの離脱を余儀なくされることを意味する。それも米国や日本のように長期繁栄を謳歌できず、短期の繁栄にとどまったのだ。そして日本がバブル後の空白の20年に直面したように、長期停滞と空白の時代に突入することを物語る。米国を追い抜き、軍事力でも米国を凌駕する勢いと日本の経済評論家が予想してきた流れにはとても復帰できまい。習近平が9月の訪米を前にしてその立場を弱める元切り下げに踏み切ったのは、そうせざるを得ないほど事態は深刻であったからだ。中国が今後どう出るかだが、内政・外政二通りの見方が成り立つ。一つは外政で、習近平が七重の膝を八重に折って国際社会の協力を求める方法だ。その最たるものが9月の訪米でオバマに「どうか利上げに踏み切らないで欲しい」と懇願すること。アメリカが利上げに踏み切れば、中国から一気に資金が流出して、それこそ本当の通貨危機に突入する。また西欧諸国や日本に対して金融緩和を求めることであろう。こうした流れを大きく作用するのがトルコのアンカラで9月4~5日に開かれるG20財務大臣・中央銀行総裁会議であろう。ここで先進国が協調して対応を打ち出せれば、上海株は安定基調を取り戻す可能性がある。こうした協調をリードすることができる国は、見渡したところ日米しかいまい。26日の電話会談は、どうも怪しい。中国問題が主議題であったのではないかと思える。

 もう一つは、内政だ。これは深刻だろう。中国は今や完全に中国共産党員という“エリート集団”が富裕層となり、バブルの崩壊で地方からの出稼ぎ労働者やチベット、ウイグルなど辺境民族は切り捨てられる宿命となった。なぜなら、高度成長が続けばやがては恩恵が13億の民全般に行き渡るはずであったのが、「共産党貴族」が誕生しただけで高度成長は終わり、格差だけが残ったからだ。習近平路線にとって決定的とも言える格差の矛盾を抱えることになるからだ。つまり十分に体制破壊の「革命要因」となりうるのである。失業率が高まることは必定であり、暴動の頻発も避けられまい。そうなってくると、一党独裁の軍国主義国家を維持するためには、国民の怒りを海外に向ける誘惑に駆られる可能性が十分にある。やり方は簡単だ。海洋膨張路線を強めるのだ。場合によっては東・南シナ海であえて軍事衝突を演出する可能性も十分考えられる。米軍機や自衛隊機を領空侵犯と称して一機撃墜しさえすれば、国民の反日感情を煽ることができる。事態は一国のバブルの崩壊では済まされない政治・外交・安全保障上の問題に転嫁する。集団的自衛権の行使が今ほど対中抑止力として重要な時はない。野党も方向音痴のデモ隊も目を覚まして、安保法制諸法の早期成立を図るべきだ。 
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