国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「百家争鳴」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2015-08-07 10:51

日経とFTで日本衰退の道を共有するのか?

田村 秀男  ジャーナリスト
 日本経済新聞社が、英名門経済紙フィナンシャル・タイムズ(FT)・グループを買収した。グローバル化に向け大きく舵を切った喜多恒雄会長の決断にまず拍手を送りたいところだが、重大な疑問がある。1600億円の大金を払って、アングロサクソン(英米)が支配する国際金融市場を基盤にしているFTを取り込む意義はビジネス利益だけか、という点だ。日経の喜多会長はFTの編集権の独立を保証し、お互いの文化の違いを尊重すると明言した。日経側から、FTの編集路線に介入しないわけである。となると、経営統合の重点はニュースやデータなどのコンテンツの相互活用、FTが先を行くといわれるデジタル技術の日経による活用に絞られていく。

 ジャーナリズムというものは、基本的にローカルであり、ローカルに根ざしたうえでグローバルな世界に切り込んでいくものだ。筆者は日経に長く在籍した。1980年代半ばから後半にかけてワシントンに、90年代後半には香港に駐在し、プラザ合意、日米通商摩擦、ブラック・マンデー(87年10月のニューヨーク株価大暴落)、香港の中国返還、アジア通貨危機など激動する経済の最前線に立った。ワシントンは、プラザ合意後、対日金融緩和圧力を激しく加え、通商摩擦では戦時の対日制裁条項まで持ち出す。中央情報局(CIA)まで動員して、日本製半導体のダンピングの証拠を集める。戦勝国対敗戦国の構図さながらである。ナショナリズムの情念に流されなくても、日本人記者であれば、米国の傲慢ぶりを行間に漂わせようと考える。

 他方で、米欧メディアはひんぱんに開かれる米政府高官とのオフレコ会見で情報をもらい、円高を誘発する高官発言を速報で垂れ流し、日本の「不公正貿易慣行」がいかにひどいか、とリポートする。香港返還時では、英メディアは香港が恥ずべきアヘン戦争勝利のたまものであることを一切無視するかと思えば、中国共産党体制に好意的だった。日本人である筆者が着目した現実はといえば、大英帝国の狡猾さと党独裁の北京に監視される香港市民の受難だった。FT側は、日本発の事案に辛口の記事を連発するだろう。4年前のオリンパスの粉飾決算事件、そして現在の東芝の不適切会計問題では、産業界に低姿勢の日経の甘さとは対照的に、国際金融市場の代弁機関、FTは遠慮会釈ない。

 日経とFTが、日本の針路にかかわる政策で一致する場合も少なくない。消費税増税が典型例だ。財務官僚の御用メディア同然の日経は消費税増税を推進し、FTは国際金融市場の利害を意識して増税を安倍晋三首相に催促した。完全にミスリードである。日本経済は増税後、再生軌道から外れ、アベノミクスは正念場だ。喜多会長は、FTと「報道の使命、価値観を共有」していると表明したが、両社が共に日本衰退の道をリードすることだけはごめんこうむる。
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『百家争鳴』から他のe-論壇『百花斉放』または『議論百出』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
東アジア共同体評議会