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2015-07-15 06:17

野党と朝日に安保法制で敗北感が濃厚

杉浦 正章  政治評論家
 緊迫した政治状況への判断は政治記者にとって“感性”が不可決だが、その感性を持って安保法制国会を見れば、野党と朝日などリベラル系マスコミに敗北感が濃厚だ。理由の一つは民主党も左傾化マスコミもデモなど外部の運動に頼り始めた。もう一つは国会で物理的抵抗をしてでも、採決の遅滞を計るような意気込みが民主党にないことだ。同党には7月15日採決をする衆院特別委員会には欠席するが16日の本会議には出席する動きもあり、腰が定まらない。審議引き延ばしを狙った維新も、自民党に裏を読まれて、不発に終わった。ここに来て政府・与党は「疾(と)きこと風の如く」に、姿勢を転換。法案は16日か17日には衆院を通過する見通しであり、9月末までには成立することが確定的となった。

 こうなったらデモを扇動するしかないとばかりに、民主党幹事長・枝野幸男が動いた。14日の日比谷の集会に出席して「もはや安倍内閣に権力としての正当性はない。党派を超えて連帯し、安倍政権の暴挙と戦っていく」と発言、成立阻止に向けての大衆行動をけしかけた。しかし採決前夜だというのに、集まったのはたったの1万数千人。安保条約改定時と比較すれば、最も盛り上がった1960年6月15日には全国で580万人がデモに参加、国会は11万人が取り囲んだ。かつての霞ヶ関の官僚トップは「安保の時は霞ヶ関の省庁の職員が窓から手を振って応援したが、今は無関心。手を振る者はいない」と述べる。たしかに、筆者は学生時代にも「アンポハンタイデモ」に参加したが、官僚や通行人から手を振って支援してもらって、心強かった記憶が鮮明だ。

 民主党代表・岡田克也は「議論すればするほど国民の関心は高まる」と言うが、実態は希望的観測に他ならない。民主党は、中国戦国策の「群羊を駆り立て虎狼(猛虎)に向かう」という格言をそのまま実行しているにすぎない。朝日新聞の論説副主幹・立野純二も語るに落ちた。報道ステーションで「一つの光明は、多くの若者、サラリーマンが街に出て思いを口に出している。民主主義の成熟が見られる」と述べた。まさにその「一つの光明」でしかない敗北感を正直に述べてしまったのだ。しかし光明が「群羊」ではいかんともし難い。シュプレヒコールも「戦争反対」「9条守れ」だが、自民党幹部は「安倍総理も同じ。戦争はしないし、反対だ。9条も守って、ぎりぎりの範囲で法案を提出した」と述べる。民主党や共産党が流したレッテル張りに基づくシュプレヒコールが、首相官邸と同じではどうしようもない。

 一方国会では、まず維新があえなく挫折した。代表・松野頼久らの「陰謀」が自民党に見抜かれてしまったからだ。松野は独自の法案を提出する事により、国会審議引き延ばしに出たのが、ばれてしまったのだ。「破たんはもともと分かっていた」と松野グループはうそぶいていると言うが、法案提出権を審議延長の手段に使うというのは、まさに“邪道”であろう。存在感誇示は不発に終わった。維新は主柱を欠き、馬糞の川流れでバラバラの状態だ。民主党も、安倍の出した法案には反対を打ち出したものの、集団的自衛権そのものについては、党内事情で賛否を表明できず、腰の定まらない論議に終わった。同党が取り上げた「自衛隊のリスク」論は、安倍によって「国民のリスク」を逆提起され、反論できないままだった。「歯止め」についても、政府・与党が示した3要件に説得力があり、これに加えて「国会の承認」があるわけだから、多数をとれば阻止できる。民主党は出来るなら阻止すれば良い。岡田の「武力行使するしないを政府に白紙委任することになる」という主張は、「徴兵制を導入する」と並んでレッテル張りの双璧だった。

 こうして論戦でも、国会運営でも、野党の敗北感が漂っており、「群羊」頼みも事実上不発に終わった。民主党は15日の特別委の採決には維新などとともに欠席する。この欠席戦術はまさに審議放棄であり、本来なら最後まで論戦を張って反対論を述べるべきだ。「女の腐った」という表現は女に文句を言われるから、新造語で言えば「男の腐ったような対応」だ。さすがにばつが悪いと見えて、民主党内には、本会議には出席して反対討論だけでもすべきであるとの「正論」も台頭しているが、まだ執行部が決めるかどうかは不明だ。これにより奇しくも戦後70年と安保改定55年の節目に、戦争抑止に主眼を置いた安保法制が確定的に実現する流れとなった。それにつけても、ここに来て地方創生相・石破茂が「国民の理解が進んできたと言い切る自信がない」と発言、さっそく枝野に「評論家的に言って、いい子になろうとするのであれば、『石破さん、感じ悪いよね』というふうに言われるのではないか。政治家ならば法案を止めるべきだ」と揚げ足をとられた。初めて枝野の発言にしてはさえていると感じた。党全体が血眼になっているときに「自信喪失」はあるまい。こんな発言をするようでは、 石破の総裁候補としての立場に疑問符がついた。
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