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2015-07-03 10:34

(連載2)集団的自衛権をめぐる論争について

加藤 朗  桜美林大学教授
 続けて苅部教授は、集団的自衛権の違憲、合憲問題について、次のように記しています。「1950年代から60年代にかけての、外務省条約局長や内閣法制局長官による国会答弁では、日本が攻撃されていないのに他国へ自衛隊を派遣することは憲法に反すると説いた例がありますが、集団的自衛権の行使が一般的に不可能だとは解していません。ところがその後、1969年もしくは72年に至って法制局は集団的自衛権の行使は憲法違反だと説明するようになりました。その背景には、日米同盟の廃止をスローガンとする野党に妥協して、国会の法案審議を円滑に進めようとした、自民党政権の政局対策がうかがえます」(186-7頁)。

 続けて法制局の憲法解釈についても、苅部教授はこう記しています。「したがって、時の政権の都合によって法制局の憲法解釈が変更されることは、何も2014年の安倍晋三内閣が初めてではありません。そのことは近年何人もの研究者によって実証的に明らかにされています(注略、加藤)。1972年の解釈変更の手続きは批判しないのに2014年だけを批判するのはいったい・・・いや、これ以上言うと、教壇からの発言のルールを破ってしまいますね」(187頁)。立憲主義に基づき、内閣による憲法解釈は認められないとする安保法制違憲派への反論です。ちなみに長谷部教授は前掲書の最後の章で、集団的自衛権そして立憲主義に基づき、その行使容認の政府解釈変更も違憲との主張をされています。長谷部教授を国会に招致した自民党の船田元憲法審査会筆頭理事は同書をまずは読むべきだったでしょう。

 さて現在の集団的自衛権問題は、与野党の権力闘争、保守、リベラルのイデオロギー抗争、Abephilia(安倍好き)、Abephobia(安倍嫌い)の感情的衝突という視点はさておき、憲法の国際協調主義と立憲主義(つまり九条に基づく一国平和主義)の対立です。この問題は実は南原の演説でもわかるように、制定時から憲法が抱える根の深い問題です。国際政治学や安全保障の立場からは前者、憲法学の立場からは後者に立って論陣を張ることになるのでしょう。

 元来国際協調主義と立憲主義を止揚する論理や実践が必要なのですが、現在の言論空間ではとても冷静な議論が成り立ちません。残念ながら、憲法や安保法制の問題が、安倍首相個人の個人的資質や性格に還元されてしまい、首相の個人攻撃や倒閣奪権の政争の具になっているからです。賛成、反対の双方とも冷静に論議のできる論争空間を構築する必要があるのではないかと思います。それにしても「三バカ」とネトサヨに揶揄され、また「隠し砦の三悪人」と自虐している三人の合憲派識者に代わって、苅部直東大教授や大石真京大教授が議論に加われば、もう少し冷静な議論ができるのではないかと思うのですが。(おわり)
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