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2015-06-17 06:46

無投票再選確実の安倍が、野党に“必殺”のくさび

杉浦 正章  政治評論家
 中国戦国時代の外交・安保戦略に「遠交近攻」がある。遠い国と親しく交際を結んでおいて、近い国々を攻め取る戦略だ。安倍はこれを維新対策に使った。近くの維新幹部の頭越しに遠くの最高顧問・橋下徹と親交を結び、安保法制で修正協議へのくさびを打ち込んだ。このくさびは、民主党を含めた野党全体へのまず抜けることのない仕掛けであり、民主・維新のペースでの国会審議の瓦解を意味する。修正協議は難航も予想されるが、場合によっては「ホルムズ海峡への自衛隊派遣は単なる経済危機では実施しない」線でまとまる可能性もある。維新内部は民主党系議員を中心に反発を強めており、分裂の可能性すら秘めた厳しい局面に置かれた。野党分断であり、6月17日の党首討論で民主党代表・岡田克也の顔を見るのが楽しみだ。折から自民党内各派の事務総長らが16日夜会合し、首相・安倍晋三の9月末の任期満了に伴う総裁選について、無投票再選になるとの判断で一致した。対抗馬は立ちそうもない情勢であり、安倍は後顧の憂いなく安保法制に専念出来る見通しとなった。14日の夜の3時間にわたる安倍と橋本の会談は、憲法学者の的外れな違憲見解で一見野党ペースに陥ったかに見える安保法制にとって、大きな巻き返し策となり得るものだ。

 安倍は官房長官・菅義偉とともに今年1月頃から、ただでさえ大阪都構想をめぐって孤立気味の橋下にエールを送り続けた。安倍は1月のテレビ番組では「大阪都構想の意義はある」と述べ、橋下は「うれしくてしょうがない」と応じている。官房長官・菅義偉は「大阪の二重行政は、効率化を図るために大改革を進める必要がある」ともろ手を挙げて都構想に賛成だった。この官邸の姿勢は自民党の姿勢と齟齬(そご)を来すほどであったが、結果的には安保法制をにらんだ遠交近攻の深謀遠慮があったことになる。会談では安倍が「政治家・橋下徹への期待感はあるんじゃないか」と述べたといわれる。これは大阪市長を辞めても、中央政界があるという事を意味している。その橋下の反応は本格的に再開したツイッターで遺憾なく発揮された。「維新の党は民主党とは一線を画すべき」「民主党という政党は日本の国にとってよくない」と口を極めて批判。都構想で散々足を引っ張られた民主党への不満をぶちまけた。加えて憲法学者の批判に対しても「内閣における憲法の有権解釈者は内閣総理大臣。憲法解釈が時代とともに変遷するのは当然のこと」と主張した。さらにツイッターでは安保法制に関連して様々な見解を表明しているが、難解な法制を理解している事が分かった。これなら十分国政でも通用する政治家になれるだろう。自民党に入党すればポピュリズムのあかを落として、黙って雑巾がけを5年やっても50歳。自民党幹部はもちろん、トップを目指すことだって不可能ではあるまい。

 そこで修正協議の動向だが、ホルムズ海峡の機雷を撤去するに当たり、安倍は安保法制に関する国会審議が始まった5月26日の本会議で「国民生活に死活的な影響が生じるか否かを総合的に判断する」として、単なる経済的な影響では派遣しないと述べた。「単に国民生活や国家経済に打撃が与えられたことや、生活物資が不足することのみで存立危機事態に該当するものではない」とも説明した。ホルムズ海峡の機雷封鎖で、生活物資や電力の不足によりライフラインが途切れることなどで、「国民の生死に関わる深刻、重大な影響」が生じるかどうかが判断基準になるとしたのだ。筆者はこれを当初公明党対策だけかと思ったが、どうやら維新対策でもあったらしい。と言うのも維新が提出を予定している安保法制の対案の核の部分が、「経済危機と言うだけで自衛隊を機雷撤去に送ることを出来なくすること」が含まれているからだ。

 これなら妥協が成立する可能性がある。もっとも維新内部の状況をみれば、ただでさえ民主党との政界再編を目指す代表・松野頼久ら民主党出身議員や前代表・江田憲司らと大阪系議員らの間で相克が生じているのに対して、安保法制修正問題はこれに火をつける作用を及ぼす可能性が大きいからだ。江田は「維新のハードルは首相がのめるほど低くはない」と発言している。松野も首相との会談に臨む橋下に「安倍さんに都構想のお礼で国会運営や法案でお返しすることは考えないで欲しい」とクギを刺している。しかし橋下は安倍と意気投合、松野の言うことなど聞いていない。あくまで合意を目指す橋下と、政府・与党がのめない案で対立を際立たせようとする松野、江田ラインの激突は避けられない可能性がある。20日には橋下と党幹部の会談が行われる方向だが、亀裂へ動くか、妥協に動くかが安保法制の動向と絡んでくる。政府・与党としては法制で妥協が出来ないなら、維新が採決に出席して反対票を投じるだけでも強行採決の印象回避になるから、維新内部の動きから当分目を外せない。
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