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2015-06-11 06:47

憲法学者はGHQの洗脳から離脱できない

杉浦 正章  政治評論家
 自民党副総裁・高村正彦が「私が批判しているのは憲法学者の言うことをうのみにしている政治家だ」と民主党幹事長・枝野幸男に切り返したが、見事に急所を突いている。枝野の「谷垣氏も高村氏も40年前の憲法議論をベースにしているのではないか。40年間、どれほど憲法の勉強をしたのか。もう1回、大学の憲法の授業を聞き直せ」との批判に反論したものだ。高村発言は、憲法学者3人の安保法制違憲論が、いかに時代と安保環境にマッチしていないかだけでなく、これに踊る朝日新聞とその論調に踊らされるポピュリズム政治家・枝野、辻元清美らを諫めたものだ。憲法の授業は先に指摘したとおり、大先生たちが戦後70年同じ帳面を読み上げているものであり、聴講に全く値しない。枝野は大学の政治学入門から講義を聴き直して物を言った方がよい。集団的自衛権の限定行使論議は、最高裁の合憲判決に基づく政治マターであり、浮き世離れした学者の違憲論を根拠にする限り民主党に勝ち目はない。既に負けると予想しているから“今をときめく”辻元が憲法解釈変更について「再び民主党政権になったら、元に戻した方がいい」と発言しているではないか。「民主党政権」が未来永劫(えいごう)あり得ないとすれば、元に戻すこともあり得ないのだ。

 官房長官・菅義偉が安保法制合憲論の学者の名前を挙げた中で、中央大名誉教授・長尾一紘の発言が一番問題の核心を突いている。長尾は毎日新聞に「戦後70年、まだ米国の洗脳工作にどっぷりつかった方々が憲法を教えているのかと驚く。一般庶民の方が国家の独立とはどういうことか気づいている」と指摘した。確かに法学者は「洗脳工作」で戦争直後に作った大学講義の帳面が代々引き継がれているとしか思えない。連合国総司令部(GHQ)は戦争直後の7年間の占領期間中、国民の間に植え付けられた軍国主義の思想を徹底的に洗い直す「洗脳工作」(War Guilt Information Program)に専念した。戦争の罪悪感を日本人の心に植え付け、絶対平和主義が理想であるかのごとき思想を徹底させた。これは軍国主義の復活で日本が再びパワーを持つことを恐れたものだ。平和憲法もその流れをくむものであろう。

 この日本の牙(きば)抜く洗脳工作は、その後の朝鮮戦争の勃発など環境激変で意義を薄れさせたが、極東をめぐる情勢は、天から平和が降ってくると言う思想では対処しきれなくなった。天から降ってくるのは200発のノドンであり、中国は漁船を巡視艇に衝突させて、尖閣領有の可能性を探っている。この状況変化に対応できないのが憲法学者であり、それを政治的に活用しようとするのが民主党なのだ。世論調査ではまだ反対が多いが、いざ国政選挙で安保問題がテーマとなれば、自民党は勝つのが過去の例だ。1960年11月に行われた総選挙は安保闘争直後にもかかわらず選挙への影響はほとんど無かった。逆に、社会党と民社党の分裂により、自民党が議席を増やした。沖縄返還後の総選挙も圧勝しており、安保が争点になれば自民党は負けたことがない。したがって自民党は来年夏の参院選か衆参ダブル選挙に、堂々と安保法制問題を提示すればよいことだ。

 砂川判決は唯一の最高裁による国の安全保障に対する合憲判決であり、朝日新聞は今日(6月11日付)の社説で「また砂川判決とは驚きだ」と書いているが、この主張の方が驚きだ。砂川判決に準拠して安保法制を作らずに何に準拠せよというのか。1959年の砂川判決は、「わが国が、その存立を全うするために必要な自衛のための措置をとりうることは、国家固有の権能の行使として当然のこと」と述べているのであり、あまりにも明白すぎて議論の余地がないほどだ。判決には個別的自衛権とも集団的自衛権とも書き込まれていないが、全てを包含するというのが常識だ。さらに重要なのは砂川判決の後半部分である。「日米安全保障条約のように高度な政治性をもつ条約については、一見してきわめて明白に違憲無効と認められない限り、その内容について違憲かどうかの法的判断を下すことはできない」としている。これが物語るものは国の安全保障に関しては最高裁ではなく政治の判断に委ねるという事であろう。

 それはそうだ。裁判官が国防に口を出そうにも出しようがないのだ。国防は三権分立における政治マターの最たるものだ。ましてや憲法学者ごときが国の命運を左右する安全保障問題で反対ののろしを上げ運動をすることは、八百屋が魚河岸でマグロを売るのと同じだ。政府・与党は今後反転攻勢に出る構えであり、自民党副総裁・高村正彦が6月11日の衆院憲法審で自ら意見陳述することを決めた。公明党代表・山口那津男までが、「学識経験者にもいろいろな意見があるが、4日の審査会で発言した方々は、法案に批判的な見解を持った人ばかりだった。政府の考えは一貫しており、その対応は、いささかも揺らぐことはない」と今国会成立を明言している。自民党内はエキセントリックな元行政改革相・村上誠一郎が「憲法学者の意見を一刀両断に切り捨てることが本当に正しい姿勢か。採決に当たっては党議拘束を外してほしい」などと総務会で主張、反逆の構えを見せているが、同調者はゼロ。村上の主張の逆を選べば全ては成功する。
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