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2015-05-15 06:05

「一国平和ぼけ」の反対論を戒める

杉浦 正章  政治評論家
 1960年の安保条約改定に匹敵する重要法案の国会提出である。外国軍隊への後方支援のための新たな恒久法「国際平和支援法案」と、自衛隊法など10の法改正を一括して1本の法案にまとめた「平和安全法制整備法案」の合わせて2本が、俎上(そじょう)に上る。既に国会内外では激しい舌戦が展開されているが、反対派の主張を分析すればするほど、何の変化もない一国平和主義に基づく十年一日の如き論議の繰り返しであることが分かる。国連憲章の中核である集団的自衛権の行使をなんで日本だけが行使してはならないかを明快に説いた野党やリベラル派の評論にお目にかかったことがない。かつて共産党や社会党には「中国の核実験は正しい」と論ずる風潮があった。1964年10月30日の参議院予算委員会で日本共産党所属の岩間正男は、中国による原爆製造について「世界の四分の一の人口を持つ社会主義中国が核保有国になったことは、世界平和のために大きな力となっている。元来、社会主義国の核保有は帝国主義国のそれとは根本的にその性格を異にし、常に戦争に対する平和の力として大きく作用しているのであります」と発言、当時ですらひんしゅくを買うどころか、あっけにとられた経緯がある。「中国の原爆はよい原爆」論である。それと同じように、周辺諸国においては集団的自衛権の行使などは論議以前の当然の権利であり、いつでも集団的自衛権にかこつけて日本攻撃に活用出来る態勢が整っていることなどは、とんと気にも留めない。

 要するに、日本だけが、ちまちました「集団的自衛権の限定的な行使」にようやくたどり着いただけなのに、「戦争法案」としてレッテルを貼ることに余念がない。テレビはNHKを筆頭にして安倍の記者会見と対峙(たいじ)するかのように、官邸周辺を取り巻く共産党と同じ主張の爺さん婆さんの発言を取り上げて大々的に報道する。NHKが煽るから官邸周辺には、ますます人が集まる。そして老いた声で「戦争法案反対」の雄叫びだか、雌叫びだかを得意げに上げる。そこには一般国民の常識のかけらも反映されず、一部政党の主張の請け売りだけが見られる。「本当の戦争法案」を中国や北朝鮮が保持して、いつでも日本を核ミサイルで攻撃でき、隙あらば尖閣諸島を領有しようと虎視眈々と狙いを定めていることなどを無視するのは、「中国の原爆はよい原爆」論と同じで、「他国の軍備増強はよいこと」論なのであろうか。

 そして専門家なる左翼・リベラル派が論理的でなく、極めて情緒的な発言をNHKなどで繰り返して風潮を煽る。内閣官房の元高官までが「今回の安保法制は地球上のあらゆる紛争に関与する法制である」などと唱える。まるで法律が出来れば戦争が始まるという「戦争法案」の主張だが、本当にそうか。それなら米国と軍事同盟を結んでいる西欧諸国が集団的自衛権の名の下に東・南シナ海にまで出かけてきて戦争する用意を、過去はともかく、いま現在しているのか。戦争の権限はいずれの国も最高指導者が保有しているが、日本の場合首相・安倍晋三にそのような“戦争指向”が見られるのか。安倍自身は記者会見で「湾岸戦争やイラク戦争に自衛隊を派遣することは絶対にない」と断言しているが、首相の発言を覆せる根拠を持って発言しているのか。安倍に質した上で発言をしているのか。安倍がヒットラーに変身でもしない限り、あり得ない事態を“風評”のごとくにまき散らすのはやめた方がよい。結局は戦争するかしないかは選挙民がヒトラーを選出するかしないかにかかってくるのであり、ヒットラーが実践したようにその風潮があれば法改正などは訳はない。安倍は「安倍ちゃん」と親しげに呼ばれているのであり、「ヒットラー」にちゃんを付ける者はいまい。

 専門家の中には「よその戦争にかかわっていないと日本の安全が守れないという理屈がさっぱり分からない」と強調する者がいるが、頭の働きをよくして物事を語れ、と言いたい。安保法制は「よその戦争」にかかわる為の攻撃的な性格ではない。誰がどう見ても「戦争を事前に抑止するための法案」である。そのための世界の常識である集団的自衛権の導入である。中国は民主党政権時代に一時尖閣諸島をグレーゾーン事態で覆えないか、漁船を派遣して探ったことがある。集団的自衛権すらもたず、グレーゾーン方式の戦略すら意識下になかった日本に、ちょっかいをかけたのである。民主党政権のうろたえぶりを見れば、グレーゾーン化は可能と見てもおかしくはない。それを阻止するのが自民党政権による法整備である。

 専門家は「自衛隊の海外での活動を歯止めなく拡大させる」とこれまた情緒的に主張するが、とんでもないこじつけである。安保法制には様々な歯止めがかかっており、その最大のものが国会の承認を前提とするものである。政府が派遣を決めようにも、国会の承認が必要となれば、これ以上の歯止めはない。これに絡んで「恒久法を作れば米国からの要請を断りにくくなる」という者がいるが、戦後七十年の平和は法律ではなく、外交によって保たれてきたのであり、時の政権がやろうと思えばベトナム戦争だろうが、何だろうが、特措法を作って後方支援くらいはやることは出来た。それをしない選択を歴代政権がとってきたからこそ、日本の平和が保たれたのである。国家の安全保障は法匪の如き狭い法律解釈によりかかって行うべきではない。最後に「日本が戦争をする国になる」というが、この地球上に存在する限り、全ての国が戦争に巻き込まれる可能性があることくらいは、世界史を見ればすぐに分かる。一国が平和主義だからと言って、好戦的な周辺国家が侵略の手を伸ばさない事などあり得ない。善意の国家ばかりではないのだ。稚拙なる国際環境の変化無視の安保論議は、厳しい現実の前にすぐに崩れるのだ。朝日新聞は15日「一国平和ぼけ」の社説を掲載し、「この一線を越えさせるな」と真っ向から安保法制に反対する方針を鮮明にさせたが、「この一線を越えなければ、平和は確保出来ない」。読売の「早期成立を図れ」が、まさに正解である。
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