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2015-02-03 06:42

安倍の対テロ定石作戦は正しかった

杉浦 正章  政治評論家
 最後の段階で官房長官・菅義偉が走る姿を初めてみたが、悪魔の如きカルト集団が仕掛けた罠(わな)に、安倍政権は冷静かつ適切に対応した。囲碁で言えば着々と定石を打っていった。オレンジ色の囚人服でひざまずかせた人質は必ず殺す狂気の殺人集団への対応は、どの国がやろうと同じ結果を招いたであろう。安倍はこの機をとらえて、自己責任の範疇に入る者以外の邦人救出への自衛隊の活動を拡大し、テロ即応体制を確立する必要がある。東京オリンピックまでに5年しかない。イスラム国は5年後も生存している可能性は否定出来ず、アルカイダも当然狙いを付けるだろう。殺害事件は日本のテロ対策に一大転機をもたらすものになる。昨年7月の閣議決定に基づき、安保法制を今国会を大幅に延長してでも成し遂げるべきである。

 安倍の殺害後の声明「非道、卑劣極まりないテロ行為に強い怒りを覚える。許し難い暴挙を断固非難する。テロリストたちを絶対に許さない。その罪を償わせるために国際社会と連携していく」と言う強い決意は海外でも大きな反響と同情を呼んだ。ニューヨークタイムズは「平和主義から離脱して、日本の首相は殺害に対し復讐を誓った (Departing From Country’s Pacifism, Japanese Premier Vows Revenge for Killings )」と断定した。一方で、国内では島国根性丸出しの論調が噴出し始めた。2億ドルの援助をイスラム国(ISIL)と戦う国に行うとする安倍のカイロ演説について、2月2日付の朝日が待ちかねたように「野党国会で検証」とデカデカと報じて煽った。しかし、2日の予算委論議を聴く限り、民主党も突くに突けない弱みを露呈させた。安倍の主張をより鮮明に引きだしただけであった。幹事長・枝野幸男がNHKで安倍の1月17日のカイロ発言が原因であるような発言をしていたが、これはさすがに少数派にとどまっている。ISIL問題を政局に活用しようとしても、国民は全く同調しないことを枝野は知るべきだ。だいいち、日本の外交がテロ集団の意向を忖度(そんたく)してねじ曲げられていいのかということになる。この局面を政治的に利用するのは邪道と心得るべきであろう。

 安倍は2日の国会答弁で「日本が空爆などに参加することはありえず、後方支援をすることも考えていない」と述べ、有志連合への後方支援については、行わない考えを示した。その一方で、国連のPKO活動に参加する自衛隊の武器使用について、「日本のNGOは世界のさまざまな地域で人道支援活動に従事しており、先の閣議決定で認められた、いわゆる『駆けつけ警護』などで、NGOの方々に及んでいる危険を除去し、救出するために武器の使用を可能にすることも検討していく。これは集団的自衛権の行使とは別に、いわば警察権の行使として行っているものだ」と述べた。1日にも安倍はアルジェリア人質事件を例に挙げて「日本はお願いするだけとなる。例え日本人だけを助ける場合でもそうなる。それで責任が果たせるのか。こちらが装備が勝っていてもお願いするのはおかしい」とテロ対策の不備を指摘。「リスクを恐れて何もしないままでいいとは考えていない」と言い切った。

 これにより、ISIL事件を契機に人質事件対策を安保法制の柱の一つに据える方針を明言したことになる。菅が「安保法制とは無関係」と述べているが、これは集団的自衛権と無関係であることを言いたいのであろう。安保法制は閣議決定で「駆けつけ警護の法整備を進める」と明記しており、好むと好まざるとにかかわらず安保法制と密接な関わり合いを持ってくる。安倍はその食い違いを野党に突かれて、直接的な回答を避けた。だが、誤解を避けなければならにのは、自己責任で危険地帯に入る者のためにまで自衛隊員の命を危険に晒す必要は無いということだ。後藤健二は自己責任を表明してシリアに入国した結果、日本政府のみならず、ヨルダン政府などを巻き込み、結果的にISILのプロパガンダの標的にされた。報道ステーションなどは英雄視する報道を行っているが、第2、第3の無謀な行為を招くような報道は慎むべきだ。あくまでアルジェリアの邦人殺害事件のようなケースへの自衛隊の対応が正しい。

 枝野は安倍のカイロ発言が原因になったとの立場から事件の検証を主張するが、検証などするまでもない。筆者が最初から「国民は覚悟をする必要がある」と殺害を予想したとおり、ISILは人質と日本を弄ぶために2億ドルふっかけたのだ。これに応じる訳がないと知りつつである。案の定日本は軽軽とISILの要求に応じなかった。業を煮やしたISILは女性テロリストとの交換で矛先をヨルダンに向けた。しかし、これも揺さぶりだったのだろう。おそらくパイロットは後藤より先に殺害されているのであろう。要するに「処刑プロパガンダ」が全ての前提であり、あとは余技にすぎなかったのだ。「頭のよい」日本の評論家や政治家はあれこれ「貴重なる解説」をしたがるが、本質はカルト集団のカルトのための殺害であったのだ。ISIL絶滅に向けて安倍は「人道援助」を続けるのは当然として、むしろ増加させる方向を表明したがこれは正解である。ヨルダンなど被援助国にしてみれば、カネに色は付かない。援助があれば、ほかのカネはISIL制圧に使える。その意味で日本の援助は空爆よりも強力な側面があり、それを知って財政破たんに直面しているISILが報復に出たのだ。オバマが真っ先に日本との連帯を表明したが、米国にしてみれば、日本をより一層引き込む絶好のチャンスであろう。先にも主張したが、安倍はミュンヘン・テロのあとのドイツの対応を教訓とすべきだ。ドイツは軍隊の第9国境警備隊(GSG-9)を組織して、ルフトハンザ・ハイジャックを見事に解決した。オリンピックに向けて警視庁のテロ対策は万全であろうが、これとは別に海外派遣を目的にした自衛隊特殊部隊を早期に創設すべきだ。
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