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2015-01-16 06:39

佐藤栄作が草葉の陰で外交文書曲解に怒っている

杉浦 正章  政治評論家
 おそらく佐藤栄作は草葉の陰で、マスコミの報道に怒り心頭に発しているだろう。草葉の陰からでは「記者諸君は会見場から出て行ってくれ」とは言えないから、墓を振動させているに違いない。なぜなら、リベラル系メデイアが米側の異議を受け一部追加した佐藤演説は「沖縄への基地集中の要因」とこじつけ解釈をしたうえに、政府が現在進めている辺野古移転の是非に結びつけようとしているからだ。しかし、「佐藤栄作日記」を精査すれば、佐藤が沖縄基地の存在を目の辺りにして胸を痛めた最初の首相であることが分かる。その原点が歴代自民党政権による基地の整理・縮小要請であり、それが安倍政権による普天間基地の辺野古への移転へと発展していることを紛れもなく裏付けているからだ。近ごろの政治記者は勉強していない。50年前の外交文書を書くなら50年前の佐藤日記を検証すべきだ。同日記によれば、佐藤は1965年8月19日の訪沖から帰京する前日の20日に、空から米軍基地を視察している。その中で「機上から軍基地を視察する。耕して山嶺に達し、平地は軍基地。本当に気の毒な状況」と心中を吐露している。この佐藤の心情が、先立つ那覇空港での「沖縄の祖国復帰が実現しない限り、わが国にとって『戦後』が終わっていないことをよく承知しております」という名演説の根幹であることは間違いない。ただ佐藤日記では、訪沖2日前に米国から演説内容についての異議が出されたことには触れていない。17日の日記では「沖縄打ち合わせ」、18日の日記でも「明日出発に備えて勉強会」とだけある。将来の日記公表を意識して、外交機密にはあえて触れない慎重さがうかがえる。

 ところが、リベラル系メディアはここをせんぞと、話を辺野古移転に結びつけようとしている。「報道ステーション」における朝日新聞論説委員・恵村順一郎の解説を右代表として紹介する。惠村は「佐藤演説はアメリカの圧力の下で沖縄に基地を集中させる一つの要因を作った。今の政府は日米合意があるからと辺野古移転を強引に進めようとしているが、政治的には今は立ち止まって考え直すときだ」と、例によって朝日型我田引水発言をしている。しかし佐藤内閣から政治記者をしてきた筆者から見れば、佐藤訪沖は米国の沖縄統治に変更を求める端緒として位置づけられるべきものであり、基地集中の原因などではさらさらない。佐藤自身が沖縄返還を実現させたことが最大の左証である。訪沖歓迎大会での演説内容に「安保条約に基づく日米盟邦関係、沖縄の安全保障上の役割りの重要性および米国の施政下でも経済的社会的進歩のあった事実」に言及する部分を付け加えたからと言って、「本当に気の毒な状況」と日記で述べた心情にいささかの変化もないのである。佐藤の気持ちの心底には「米国何するものぞ」という意気込みがあったと思う。国会で外相・椎名悦三郎が「アメリカは日本の番犬です」と発言、野党が突っ込むと「アメリカは日本の番犬様です」と言いなおした際、佐藤が手を叩かんばかりに喜んでいた姿が彷彿としてよみがえる。

 そもそも米国が日本の首相として初めての佐藤訪沖に極めて神経を尖らせた背景には、ベトナム戦争の本格介入というのっぴきならぬ軍事情勢があった。1965年にはジョンソンが北爆に踏み切り、嘉手納基地からはB52がひっきりなしに飛び立つということになるのだ。沖縄がベトナム戦争の最重要基地と化しつつある緊迫情勢の中での訪沖であり、米国にとって基地の安定使用は戦争の帰趨を決めるほどの重要性を帯びていたのである。その当時は日本政府にとって重要性は間接的でありひしひしと伝わるほどのものでなかったことは確かである。逆に現在の沖縄米軍基地の存在は日本にとって切実なまでに重要性が増大していると感ぜざるを得ない。言うまでもなく中国の海洋覇権主義と北朝鮮の原爆搭載ミサイルの開発である。沖縄が異常なる隣国の異常なる軍事行動への抑止効果としての存在を強めていることは佐藤内閣時代の比ではあるまい。

 政府を「日本政府」と呼ぶ知事が誕生して、現地の政治状況としては不利になった普天間の辺野古移転を、惠村が主張するように「立ち止まって考え直す」ことなど出来るだろうか。とても出来ない事態が目の辺りにあるのである。そもそも市街地のど真ん中にある普天間移設は、転ばぬ先の杖そのものであり、墜落事故でも起きたら日米安保体制を揺るがす事態に発展することは火を見るより明らかだ。それとも反対派は事故が起きるのを待っているのだろうか。19年前の日米移転合意、16年前の知事の同意に基づく閣議決定、2013年の知事・仲井真弘多の移転承認に至るまで、忍耐強く地元の説得を続けて来た自民党政権の移設工事本格化には何の瑕疵(かし)も見られない。移転と同時に嘉手納以南の米軍基地の7割が返還され、海兵隊員の約半分9000人がグアムなどに移転するのである。沖縄の基地負担はまぎれもなく軽減されるのであり、政府は自信を持って粛々と移転を推進するべきである。安倍は大叔父・佐藤栄作の心情通りに基地負担軽減路線である移転にまい進するべきであろう。沖縄基地問題も「この道しかない」のだ。
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