国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「百家争鳴」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2015-01-11 10:43

フランスはムスリム社会と共存・共生できるか

若林 洋介  自営業
 近代市民革命の発祥の地、フランスのパリでイスラム過激派による風刺週刊誌編集者銃撃事件が起きた。われわれにはいかなるテロリズムもこれを許容する余地はまったくなく、言論の自由や表現の自由は絶対に守り抜かなければならない価値である。しかし、イスラム教諸国では、西洋社会のような政教分離の観念は普及しておらず、近代市民社会の価値観に対する理解もできていない。西洋社会も、現在の価値観にたどり着くまでには、ルターやカルヴァンの宗教改革から400年かかっている。その前の西洋社会では異端者たちを火あぶりの刑に処することは、珍しいことではなかった。18世紀のカントの啓蒙哲学で人間中心の世界観が確立し、19世紀のダーウィンの進化論でキリスト教批判が市民権を獲得できたのであって、他宗教への不寛容さにおいて、19世紀までのヨーロッパは今日のイスラム教諸国と大差はなかった。  

 サウジアラビア、イラン、イラクなどのイスラム教諸国内で、今回のような風刺画が出版されたならどうなるだろうか。関係者はイスラム法で裁かれ、場合によっては処刑されるだろう。それがイスラム社会の掟だからである。そういう感覚をイスラム教徒たちは持っている。しかし、今回の事件は、フランスのパリで起こった。そこでは言論や表現の自由への挑戦的行為は絶対に許されることはない。が、それだけでよいのだろうか、ということを私は一つの疑問として、ここで提起してみたいのである。フランスという国は、もはやこれまでのようにキリスト教の歴史だけを背負っていればよい国家ではないのではないか、という疑問である。フランスの現状は、多民族国家、多宗教国家という形態に変化しつつあるのではないか、ということである。そうなるとイスラム教は、もはや他国の宗教ではなく、自国の宗教の一つである、という考え方が必要となる。        

 フランス社会は、キリスト教徒とイスラム教徒の共存・共生を大きな課題として背負っており、この課題をフランス全国民が共有していく中で、新たな共生社会を構築していかなくてはならないということである。西洋社会には、かつてプロテスタントとカトリックの血なまぐさい宗教戦争があり、その教訓を踏まえて両宗派は妥協し、宗教的寛容の理念の下に共存・共栄の近代市民社会を構築した歴史がある。そうは言っても、英国のアイルランドではいまだにプロテスタント地区とカトリック地区が高い塀で仕切られており、棲み分けによって何とか紛争を回避している状態である。ことほど左様に、宗教がからむと問題の解決は難しい。  

 それにしても、21世紀を生きる現在のフランス国民は、言論の自由や表現の自由という近代社会の理念と他宗教との共存や共生という現代社会の理念の双方の担い手として、両者の対立・相克にいかに折り合いをつけてゆくべきかを問われていると言える。現在のフランス国家の中には近代市民社会の理念とまったく原理を異にするイスラム法によって統治されているムスリム社会が存在する。これは既成事実である。してみれば、フランス国民はこのムスリム社会を吸収合併でもしないかぎり、なんらかの形でのそれとの共存・共生の道を切り開くことにしか選択肢を持ち得ないのではないかと思われるのである。
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『百家争鳴』から他のe-論壇『百花斉放』または『議論百出』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
東アジア共同体評議会