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2006-11-06 06:40

中国のためにも必要な人民元改革

村上正泰  日本国際フォーラム主任研究員
 私は、9月11日付けの投稿「人民元改革とアジア経済」において、アジアにおける安定的な通貨体制の構築という観点から、人民元改革の必要性を指摘したが、一国の為替制度はまず何よりも当該国の立場から考えなければならない。今回は、更なる人民元の柔軟化が中国自身にとっても必要であることを指摘したい。

 国際経済においては、インポッシブル・トリニティが存在する。それは、いかなる国家も為替レートの安定、金融政策の独立性、自由な国際資本移動を同時に達成することはできないというトリレンマである。今後、中国における国際資本移動は次第に自由化していかざるを得ない。したがって、人民元は本格的に柔軟化せざるを得ないのである。

 割安の為替相場を無理に維持すれば、市場介入に伴い外貨準備は増大するが、米国債の購入が積み上がり、資源配分の観点から見て非効率である。また、国内の通貨供給量も増大して、景気の過熱に拍車を掛けることになる。それを不胎化するといっても、完全にできる訳ではないし、不胎化の結果として金利が過度に上昇すれば、投機的資金の流入も招きかねない。したがって、中国においては、適切なマクロ経済運営の観点から、為替相場の柔軟性を高めていくことが必要なのである。

 ところで、アジア通貨危機が示しているように、金融制度の脆弱な新興市場国は資本取引の自由化を慎重に進めていかなければならない。とりわけ、現在の中国においては、不動産・鉄鋼・アルミ・セメント・自動車などの過熱業種に対する過剰貸出の不良債権化が懸念されている。国内金融制度の脆弱性に十分注意を払わず、資本取引の自由化を急ぎ過ぎることは危険である。健全な金融制度を構築するためには、銀行の監督体制、資本市場の発展、コーポレート・ガバナンスの改革などを進めていかなければならない。こうした改革は段階的に進められていくべきものである。日本の経験に照らして考えても、本格的な資本取引の自由化の前に、為替相場を切り上げる方が望ましい。

 とは言え、急激な切り上げは逆に経済への悪影響が大きい。微妙なバランスの上に立ちながら進めていく必要がある。最近、中国当局からも人民元の柔軟化の必要性を認める発言が出てきている。人民元改革は我が国にも大きな影響をもたらす問題である。引き続き中国当局としっかりと対話を積み重ねていく必要がある。
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