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2014-11-11 06:57

経済、文化先行型で協調を積み上げるしかない

杉浦 正章  政治評論家
 工場の操業停止と自動車乗り入れ規制で北京に青空が戻ったが、これもつかの間、アジア太平洋経済協力会議(APEC)の外国要人が去った13日からは毒ガスPM2.5の世界に逆戻りする。土砂降りだった日中関係も首脳会談を契機に青空が垣間見えるが、これもつかの間いつ暴風雨が到来するかは予測できない。不測の事態回避の海上連絡メカニズムは、まだ不測の事態が起こり得るから合意したのだ。つかの間の晴れ間を戦略的互恵の本格的晴天に移行させるのは、両国のさらなる努力が必要だが、基本的には中国国家主席・習近平が力による現状変更路線を転換するかどうかに全てがかかっている。

 5か月前に筆者が「APECにおける日中首脳会談説」を唱え始めたのは、ごくわずかな兆候がきっかけだ。それは習近平が「APEC主催に向けて北京市にオリンピック並みの整備を命じた」とするベタ記事だ。それほど重視する国際会議を開催する以上、対日関係をそのままに出来ないと見抜いたからだ。事実オープンセレモニーを見れば、まるでにわか成金が、来客を歓待するかのようなけばけばしい演出が展開されている。そして習は歴代皇帝のごとく朝貢する来賓を出迎え、これを放映させた。中国国民は「どんなもんだい」と大国意識をくすぐられる。そして習の地位はいよいよ固まる。その一環から見れば、首相・安倍晋三との会談冒頭の横柄な態度もなるほどと分かる。これまで先頭に立って反日を煽(あお)った習にしてみれば、にこやかに出迎えることは国民を裏切ることになる。だから習は安倍がきっと話しかけてくるから、シカトしてやろうと心に決めて臨んだに違いない。逆に朴槿恵とオバマと会った際はこんなお愛想顔が、その仏頂面のどこから出てきたのかと思うほどにこやかであった。アウェイでの勝負だから、安倍もこれくらいは我慢するしかない。

 しかし、習の態度も表向きの話で、実際の会談はたったの25分間、通訳の時間を差し引けば10分そこそこだったが、紳士的な雰囲気の中で行われたという。内容がつまったものだったが、これは両者が事前に決めた発言内用に沿って話し合った結果だろう。筋書き通りに話し合わなければ出来るものではない。海上連絡メカニズムの推進が中心になることは予想したとおりだった。予想外だったのは安倍の「中国の平和的な発展は国際社会と日本にとって好機だ」という発言。明らかに習が首脳会談の眼目の一つとして重視している日中経済関係再構築への期待を読み取っての発言だ。案の定習は「中国の平和的発展は好機だという安倍首相の発言を重視している」と乗ってきた。日中経済関係は「政冷経熱」どころか、対中投資が43%も減少「政経結氷」となっている。これがGDPを直撃しており、習にしてみれば対日改善事項では最優先課題であろう。日中関係改善の糸口は真冬の経済に春風を吹かすことにあるのだろう。もっとも対中投資がおいそれと戻るかと言えば、企業がチャイナリスクを感じていることに加えて、人件費の高騰という構造要因があり、一朝一夕には無理だろう。ここは中断している経済閣僚による日中ハイレベル経済対話を復活させるなど、1歩1歩前進させていくしかあるまい。北京の空を恒常的に晴天にするための環境技術の提供も、一般市民レベルの対日感情好転につなげられる要素だ。

 問題なのは政治・安保の側面だ。東・南シナ海で力による現状変更を目指し、無謀なる軍拡路線を拡大し続ける中国にその路線を転換させられるかどうかだが、極めて困難と見るしかあるまい。尖閣諸島への公船の領海侵犯は既成事実化の魂胆が丸見えであり、頻度は少なくなってもやめないだろう。一方的に敷いた防空識別圏の設定も解消することはあるまい。来年は「抗日戦争勝利70周年記念」で様々な行事が予定されており、歴史認識に照準を当てた動きが生ずることは必至とみなければなるまい。しかし注目すべき動きもある。習と朴槿恵が10日、日中韓3か国の協力を進めるため、日中韓外相会談を年内に開催することが必要との認識で一致したことだ。これが中断している日中韓首脳会談につなげられれば、大きな動きになる可能性がある。同首脳会談は2008年から2012年まで年に一度開催されていたが、尖閣国有化で途絶えたままとなっている。要するに日中首脳会談は関係改善への一歩を踏み出したに過ぎない。安倍はこれまで通り、日米同盟の強化を進め、アジア各国との連携で中国封じ込めの政策を維持せざるを得ない。力の均衡を崩してはなるまい。
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