国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「百家争鳴」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2014-11-06 07:06

共和党圧勝は安倍の外交・安保路線にプラス

杉浦 正章  政治評論家
 政府関係者もマスコミも「日米関係に変化はない」の大合唱だが、変化を予知する能力がないから「変化がない」といっているのだろうか。米上下両院での共和党圧勝は日米関係にも変化をもたらすのである。まず首相・安倍晋三路線にとってのプラスは日米外交・安保関係にある。議会で伝統的に対中強硬路線を取る共和党が多数を占めた結果、これがオバマの対中外交に影響を及ぼさざるを得ないということだ。アジア・太平洋での同盟関係には強化へと作用する。マイナスは共和党は農林関係者の支持層が厚く、牛・豚肉の関税などをめぐって環太平洋経済連携協定(TPP)交渉でオバマの対日妥協をけん制する動きが出る可能性があることだ。外交は微妙な変化でもこれを予感する能力がないと方向を誤る。民主党大敗は紛れもなくオバマの大敗であり、日米関係にも影響は不可避なのだ。まずオバマと議会との関係は、2年後の大統領選挙に向けて次第に対決色を増して行くと予想される。民主党は国務長官を務めたヒラリー・クリントンが「一強」のまま選挙まで続くことが予想され、オバマはクリントンとの盟友関係を折に触れて発揮してゆかざるを得ないものとみられる。

 共和党が議会両院で多数を占めた結果、議会におけるねじれは解消したが、大統領府とのねじれは一段と深刻化した。過去の大統領で議会の作る法案に最も多くのveto(拒否権)を発動した大統領はフランクリン・ルーズベルトで何と635回に達している。大統領はvetoで議会の影響を払いのけようとするが、議会はこのvetoを覆す3分の2の多数による再可決overrideでさらなる対抗が可能だ。筆者がワシントン特派員時代に、ニクソンと議会の間でこの鋭い対決がありニクソンが負けている。泥沼化したベトナム戦争を背景に戦争での議会の権限を強める戦争権限法案で議会が勝ったのだ。議会と大統領府のねじれは、クリントンが1994年の中間選挙以来そうであったし、2006年以降のブッシュ政権もねじれていた。クリントンは早々に議会との妥協に動いて成果を上げている。従って珍しい事でもない。さらに喫緊の課題は狂気のテロリスト組織イスラム国への対応だ。オバマの残る2年の任期において、これだけはレームダックでは済まされない事態だ。放置すれば批判はオバマにかかってくる。空爆だけで対応できる可能性は少なく、壊滅させるには地上軍の投入が不可欠になる可能性もある。共和党はさらなる関与を主張しており、地上軍投入となれば当然日本にも何らかの貢献の要請が生ずることはあり得る。安倍は集団的自衛権の行使がらみでの参加は完全否定しているが、後方支援の必要が出る可能性はある。

 内政ではオバマの推進する医療保険制度改革、いわゆるオバマケアで共和党が反対の姿勢を強めている。オバマケアつぶしの法案が提出される可能性があり、妥協が成立しなければvetoを行使せざるを得なくなるかも知れない。オバマは議会の影響を直接的に受ける内政よりも、外交・安保でレームダック化の是正に動く可能性が高い。さっそく登場する外交課題は11月10日からのアジア太平洋経済協力会議(APEC)における米中首脳会談だ。APEC成功を極めて重視する習近平が、よもやオバマの足元を見透かすような露骨な対応に出ることは予想されないが、底流にオバマ軽視の姿勢があっても不思議はない。一方で共和党にはかねてから中国によるサイバー攻撃への批判を軸に対中批判が強く、対中強硬政策への注文が強まりこそすれ弱まることはあるまい。ともすれば中国に傾斜していたオバマは、中国の尖閣諸島や南沙諸島への進出という現実を前に日米豪を軸とするリバランス・対中抑止路線を取らざるを得ない状況に置かれた。その中での共和党圧勝は、習近平に対して“甘い顔”がさらに許されなくなった事を意味している。

 日米外交・安保面ではオバマがレームダック化しても事実上のナンバー2に近い立場の国務長官・ケリーや 国防長官・ヘーゲルとの関係はかつてなく良好な状況にある。集団的自衛権の行使を前提にした新日米防衛協力の指針(ガイドライン)などの作成作業に支障を来すことはあるまい。むしろ共和党圧勝は安倍の目指す日米基軸外交の外交・安保路線を後押しをするものとなろう。安倍は9日から9日間の日程で、中国で開かれるAPEC=アジア太平洋経済協力会議の首脳会議、ミャンマーで開かれるASEAN=東南アジア諸国連合の関連首脳会議、オーストラリアで開かれるG20サミットに出席する。日米豪3国は豪州のブリスベーンで15、16両日に開かれるG20の場で首脳会談が開催されることになっているが、オバマにとってアジア太平洋での同盟関係再構築の場となろう。またこれら国際会議の合間を縫って日米首脳会談が開催され、関係強化を確認することになろう。TPP交渉に関しては総じて共和党は推進論だ。しかし個別分野では厳しい局面が生ずるかも知れない。共和党は自由貿易主義者は多いが、農業団体関係者も多い。とりわけ焦点の牛・豚肉分野の輸入関税に関しては共和党は業界の支援を受けている。8月には共和党の下院議員らがオバマに対して書簡を送り日本の農産物市場の大幅開放を要求している。大統領がより厳しい対応を迫られる可能性は十分にある。
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『百家争鳴』から他のe-論壇『百花斉放』または『議論百出』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
東アジア共同体評議会