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2014-08-18 04:49

北戴河会議で習近平は権力基盤を固めた

杉浦 正章  政治評論家
 中国国家主席・習近平にとってその命運を左右すると言っても良い北戴河会議が閉幕した模様だ。極めて少ない情報の中から分析・推理すれば、おそらく習近平の権力基盤は強化され、内政・外交にわたって事実上のフリーハンドを握った公算が強い。今後10月の党中央委員会第4回全体会議(4中全会)を経て権力基盤を確立する流れだ。外交政策は11月に北京で開催されるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議を軸に活発化させるだろう。焦点の対日外交は、膠着打開に向けて動き出すものとみられ、既報のように日中首脳会談がAPECを機会に開催される流れとみられる。渤海(ぼっかい)湾に面した河北省・北戴河(ほくたいが)は植民地時代に欧州列強が開発した中国有数のリゾート地だ。共産党は建国後、別荘を接収、会議場を作った。毛沢東らも活用、90年代には党や政府、軍の指導者、長老らが集まり、国家の大方針で意見を交換する場となった。会議は全くの秘密会で、かん口令が敷かれて漏れてこない。今回も「8月1日~15日にかけて開催された可能性が高い」と報じられているだけで、確たる開催日は不明だ。昨年は習近平の汚職摘発をめぐって激論が交わされたといわれている。このため今年も周永康の立件問題について激しい応酬があるという見方が強かった。

 しかし香港の有力日刊紙「明報(めいほう)」だけが 15日、情報筋の話として、「会議で長老らは習主席の汚職撲滅運動に擁護の姿勢を示し、予想外にも穏便に運んだ」と伝えている。さらに同紙は「会議の前から、長老らは習主席に誤解されないよう、お互いの行き来やコミュニケーションなどを控えていた」と報じ、習近平の“威光”が長老にまで働いた事を指摘している。ということは、元国家主席・江沢民が手も足も出せなかった可能性がある事を物語る。江沢民派である上海閥の薄熙来を不正蓄財で無期懲役にし、今度は本命・周永康を汚職で立件した習近平が、北戴河会議を通じてそのペースを維持した可能性が濃厚であるのだ。江沢民派狙い撃ちの効果が出たのだ。逆に前国家主席・胡錦濤派の共産主義青年団が習支持に回ったことも習を勢いづけたものとみられる。昨年は江沢民も反撃に出る力があったが、汚職撲滅という権力闘争によって、側近らを摘発され、反撃力は弱体化したのであろう。習が「刑不上常委」(刑は常務委員に上がらず)の不文律を破った効果は絶大なのであろう。

 日本の外交筋は「裏では取引が働いたかも知れない」と漏らしている。「虎も蠅も叩く」の「虎」の1人である江沢民にまで汚職摘発を及ばせないという取引だ。これが成立すれば江沢民は当然黙る。さらに加えて貧富の格差の拡大や情報伝達手段の大衆化によって、共産党1党独裁の矛盾が歴然としてきており、これに対する危機感も長老らに共通していた可能性がある。1党独裁が崩れれば、自らの生命財産も崩れるという危機感である。こうして習近平がこの夏中国の政局において一段とその権力基盤を強めた可能性が濃厚である。今後4中全会では「法による統治」をテーマに汚職撲滅の制度化を図り、習近平は国内における権力集中を一層増幅させてゆくものとみられる。こうした実権確立の上に外交が展開されることになるが、中国の外交は内政の延長であり、権力基盤の確立が大きな作用をもたらすものとみられる。対日外交がどうなるかだが、おそらく北戴河会議でも主要テーマになっているとみられる。当面の大きな目標は、筆者が最初から指摘してきたとおり、APECの成功である。APECは習近平が大国の威信をかけて主催する国際会議であり、これが5月の「アジア安全保障会議(シャングリラ・ダイアローグ)」のように、日米が主導し中国が孤立化しては、国内的にも基盤が崩れかねない要素がある。習にしてみれば、首相・安倍晋三が同会議で展開したような“反中世論形成”を、APECで繰り返されては威信が地に落ちるのだ。

 当面の流れは、これを前提に見る必要がある。当然習近平も対日関係改善がAPECの成功のキーポイントの一つであることは分かっている。中国は5月の日中議員連盟訪中団(会長・高村正彦自民党副総裁)でやや軟化の兆しを見せ始めたが、それが明白となったのが7月に習近平が元首相・福田康夫と会談したことである。福田はAPECでの日中首脳会談を期待する安倍のメッセージを伝えている。8月にはミャンマーで安倍政権成立後初めての日中外相会談が実現した。岸田文男と王毅の会談は双方が自らの立場を主張して、合意らしいものは見当たらなかったが、両国の外交事情から言えば、会談が実現したこと自体が画期的とも言えるのだ。一方で安倍も7月25日からの中南米訪問以降は対中刺激の言動を意識的に避けている。8月15日の靖国参拝も見送った。玉串料奉納や閣僚の参拝に対して、昨年は北京で日本大使を呼びつけて抗議した中国も、抑制的に対処している。まだまだ両国関係は累卵(るいらん)の危うきにあることは確かだが、首脳会談に向けての萌芽が芽生え始めたこともまた確かである。 
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