国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「百家争鳴」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2006-10-20 05:24

安倍訪中時の「日中共同プレス発表第8項」を評価する

石垣泰司  東海大学法科大学院教授
 今般の安倍総理の中国および韓国訪問は、私のように東アジア共同体をめぐるASEAN+3諸国有識者との論議に多少なりとも関与してきた者にとり、少なからず安堵させるものがあった。というのは、小泉政権末期におけるわが国と中韓両国の間の政治指導者の直接対話の欠如による日中、日韓間関係の冷え込みは、我々がASEAN関係者に対し如何に言い繕っても、紛れもない事実であり、先方との対話の会合の度ごとにASEAN諸国関係者から、東アジア共同体構築のためには、まず北東アジアにおける日中韓3国関係が改善することが先決なりとする指摘や要望が相次ぎ、その都度日本側はしばしばその立場を説明せざるを得ない守勢に立たされてきたからである。 

 しかるに、安倍新内閣発足後日を置かずして中韓両国への総理訪問が実現し、とくに訪中は、短期日ながら公式訪問の形をとり、胡錦濤主席、温家宝国務院総理、呉邦国全人代常務委員長3首脳との会談が行われた上、「日中共同プレス発表」が発表されたのは快挙といって良い。

 その「日中共同プレス発表」は、両国間の諸懸案事項のほとんどすべてをカバーした総花的なものではあるが、とくに第8項が「双方は、国際問題及び地域問題における協調と協力を強化することで意見の一致をみた。 双方は、核実験の問題を含む最近の朝鮮半島情勢に深い憂慮を表明した。(中略)双方は、東アジア地域協力、日中韓協力における協調を強化し、東アジアの一体化のプロセスを共に推進することを確認した。(後略)」と述べていることに注目したい。その中で、東アジア共同体に関連しているとみられる言及は、「東アジア地域協力、日中韓協力における協調を強化し、東アジアの一体化のプロセスを共に推進することを確認した」という部分であるが、単に「東アジア地域協力」を推進するというだけでなく、「東アジアの一体化のプロセスを共に推進する」、さらにその際「日中韓協力における協調を強化し」とまで踏み込んで述べていることは、私には新鮮に感じられる。

 もとよりこのような記載があるからといって、現実に東アジア共同体構築に向け日中韓3国協調が少しでも目に見える形で進展するかどうかは、全く別個の問題であり、そう簡単に実質的進展がみられそうもないのが実情と思われるが、少なくとも今回の日中両国首脳会談を踏まえた両国の基本姿勢が上記のように前向きに打ち出されたことは率直に評価して良いのではないだろうか。もっとも、どこにも「東アジア共同体」という言葉は用いないで、「東アジアの一体化のプロセス」を推進するという表現を注意深く使っている点については、物足りなさを感じられないではないが、「東アジア共同体」構築に向けての具体的動きが実際に動き出すにはまだ程遠いという現状況を忠実に反映したものともいえるであろう。
 
   
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『百家争鳴』から他のe-論壇『百花斉放』または『議論百出』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
東アジア共同体評議会