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2014-07-03 06:01

日朝、中韓「クロス接近」の内情を分析する

杉浦 正章  政治評論家
 極東情勢が7月3日朝鮮半島をめぐって目まぐるしい展開を見せようとしている。その基軸は中韓と日朝の「クロス接近」という潮流である。中国国家主席・習近平と韓国大統領・朴槿恵の会談は、対日歴史認識で共同歩調を取る公算が強い。一方で日本政府は拉致問題をめぐって同日、対策本部の関係閣僚会議やNSC=国家安全保障会議を開き、北朝鮮に対する日本独自の制裁措置の一部を解除する方向を打ち出す公算が高い。口にこそ出さないが、それぞれの国に古来外交の鉄則である「敵の敵は味方」的なムードすら生じているのだ。まず日朝関係から見れば、明らかに北朝鮮は立て続けのミサイルの発射で、中韓接近をけん制している。日本に対するけん制と見るのは間違いであろう。日本に届かない短距離ミサイルの発射に込められたメッセージは、中韓首脳会談への当てつけである。日朝局長級会談ではミサイル問題は形式上の抗議にとどまり、日本側はもっぱら拉致問題に焦点を当てた。おそらく水面下で日朝交渉を支えている金正恩側近の「2代目ミスターX」あたりから対日けん制を否定する情報が入っている可能性が高い。加えてミスターXからは、拉致被害者、日本人妻、特定失踪者をめぐって相当詳細な情報が入っているものと予想される。

 そうでなければ局長級会談で日本側が「宋日昊(ソンイルホ)国交正常化交渉担当大使から丁寧な説明があった」と説明し、宋が「協力的な会談であった」と述べただけで、日本側が制裁の一部解除に踏み切れるわけがないのだ。
解除するのは、日本が独自に実施している(1)人的往来の制限、(2)北朝鮮への現金持ち出しの届け出義務、(3)人道目的の北朝鮮籍船舶の入港禁止、などの3分野となろう。北の対日大接近は、国際社会の包囲網に突破口を開けられるかどうかの瀬戸際であり、拉致被害者、日本人妻、特定失踪者への調査も本気で進めているのだろう。金正恩も父親のやったことでもあり、拉致問題への思い入れはないものとみられる。日本人妻へは聞き取り調査で日本に帰りたい者は返す方針を伝えている公算が強い。中国との関係は、張成沢粛正以来最悪状態にあり、金正恩は当分関係改善は不可能と見切ったのであろう。

 一方で、朴槿恵は4月の旅客船沈没事故以降低迷している支持率回復に対日カードを再び切ろうとしている。“言いつけ外交”の復活である。露骨にも中国の国営中央テレビ(CCTV)で“言いつけ”を再開した。インタビューで朴は日本による河野洋平官房長官談話の検証報告書に初めて言及し、「談話の精神を破壊し、韓日の信頼関係を壊した」、「歴史を逆行させることはできない。日本の指導者が早く正しい歴史観を持ち、周辺国との協力関係を築いてほしい」と批判した。明らかに習近平との会談を意識して歴史認識で“共同歩調”を取ろうとしているのであろう。これにたいして中国側も、中韓首脳会談で歴史認識問題を取り上げる方針を明示している。中国外務次官の劉振民は1日の記者会見で「日本で極右勢力による歴史改ざんが現れている背景で、話さない方が不自然だ」と強調、首脳会談のテーマになると明言した。しかし共同声明などの文書で対日批判を展開することには否定的な方針を示した。反日に固まる朴に対して、習近平との間には温度差が見られる。最近習は明らかに11月の東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議の成功を意識し始めた。

 シャングリラ会議で孤立した二の舞を警戒しているのだ。従って朴との会談では経済関係の強化を重視するものとみられるが、ここにきて日米韓の連携を分断する絶好のテーマが浮上した。安倍の集団的自衛権の行使容認への閣議決定である。中韓両国は集団的自衛権行使への警戒感が強く、とりわけ中国は反対の方針を明示している。一方、米国はホワイト・ハウスも国務、国防両省もオバマのリバランス戦略に合致するともろ手を挙げて評価している。米国は鉄は熱いうちに打てとばかりに、年末の日米防衛協力の指針(ガイドライン)改訂に向けての動きを速めている。習が日米韓にくさびを打ち込むには、朴を集団的自衛権の行使反対で取り込めばかなりの成果となる。そこに朴のジレンマが発生する。朴が集団的自衛権反対で習の口車に乗って、中韓共同で反対となれば、国防政策まで中国寄りになることを意味する。習にとっては思うつぼであり、逆に米韓軍事同盟は毀損されることになりかねない。要するに、「二股」による板挟みである。さらに今から警告しておくが、朴が対中接近でのめり込めば、土地バブルがはじけた場合に、中韓抱き合い心中となりかねない側面がある。こうして極東情勢は組んず解れつの展開を見せようとしている。
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