国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「百家争鳴」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2014-06-12 15:49

(連載1)物価の上昇がデフレからの脱出とは限らない

田村 秀男  ジャーナリスト
 民主党の菅直人政権時代の2011年6月、消費税増税案を作成した与謝野馨経済財政担当相(当時)と会ったとき、筆者が「デフレ下での消費税増税は避けるべきではないか」と反対論をぶったとき、与謝野氏の脇にいた官僚氏が傲慢にも口をはさみ、「消費増税すると物価が上がりますからね」とニタッと笑った。そんな経済に無知な官僚が裏で増税案をとりまとめ、メディアを操縦し、政治家たちを篭絡し、国民の運命を狂わせてきた。

 「無知」と言ったのは、「物価上昇=脱デフレ」という短絡的な思考のことである。1930年代のデフレ恐慌時代に『雇用・利子および貨幣の一般理論』を著したJ・M・ケインズはデフレについて、「物価下落が続くという予想が広がっていること」と定義したばかりでなく、「(デフレは)労働と企業にとって貧困化を意味する。したがって、雇用にとっては災厄になる」と考察している。つまり、デフレかどうかは物価と雇用の両面から判定するべきだと説いている。

 米国ではこの見方が定着していて、物価変動率が例えプラスであっても、雇用状況が悪化していれば、政府も連邦準備制度理事会(FRB)もそれを重視する。リーマン・ショック後、FRBは物価上昇率がマイナスからプラスに転じた後も、失業率の改善が思わしくないことから、大量にドル資金を発行しつづける量的緩和政策を続けてきた。

 「物価さえ上がれば、デフレからの脱出だ」と思い込んでいるのは、官僚ばかりではない。官僚たちを教えた大学教授たちがそうだ。5月19日付の日本経済新聞の経済教室の寄稿者の某教授氏は「4月18日付『経済教室』で東京大学の渡辺努教授が指摘したように」との前置きに続け、「消費税率の引き上げが価格の硬直性を弱め、デフレ脱却の契機を与えているという解釈も可能かもしれない」と述べている。「価格硬直性」とはコストが変わっても企業は販売価格を改定しない傾向を指す。今回の場合、企業が消費増税の機会を利用して消費税増税分以上に値上げするケースが目立つのを、某教授は学者言葉で硬直性が弱くなったと評価した。(つづく)
 
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『百家争鳴』から他のe-論壇『百花斉放』または『議論百出』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
東アジア共同体評議会