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2014-06-06 13:57

(連載1)中国はイスラムと衝突するのか

河村 洋  外交評論家
 ツール・ポワチエ間の戦い以来、イスラムと西欧の激突こそ最も歴史を左右する文明の衝突だと一般には思われている。しかし中国が昨年9月にGDPよりも先に石油輸入量でアメリカを抜いて世界第一位になってしまったので、イスラム世界との新たな衝突相手として浮上するであろう。これは中国とイスラム諸国との接触が増え、そのためにアフリカで見られるように摩擦も増えることを意味する。これによって欧米の支配からイスラムの解放者、そして途上国のリーダーを自任する中国の立場は揺らぐであろう。また中国経済は欧米以上にイスラム圏での政治的動向に対して脆弱となる。

 アメリカのエネルギー情報庁による「中国カントリー・レポート2012年」によれば、中国への主要石油輸出国の中でイスラム諸国はサウジアラビア(1位)、イラン(3位)、オマーン(5位)、イラク(6位)、スーダン(7位)、カザフスタン(9位)、クウェート(10位)となっている。これほどまでイスラムの石油に依存しているとあっては、中国は中東と中央アジアで綱渡りの外交および内政政策をとって自国の経済的権益を守り、国際舞台での勢力強化をはかっている。

 中東で中国が戦略的に重視している国はイラン、サウジアラビア、トルコである。イランはイスラム革命以来、中国とは緊密な関係を保ってきた。しかしペルシア湾岸ではイランとサウジアラビアと対立する大国同士であり、中国も両国の微妙なバランスをとらねばならない。イスラエルはテヘランの核の脅威を恐れているが、サウジアラビアが懸念しているのはイラクからバーレーン、シリア、レバノン、イエメン、自国の東部にいたるシーア派包囲網の確立による湾岸地域でのイランの覇権である。今春に行なわれた軍事演習では、サウジアラビアは中国製の東風3弾道ミサイルを誇示した。サウジアラビアはこのミサイルを1988年に輸入していたが、今回の演習までそれを極秘にしていた。CIAによればサウジアラビアは2007年にはより高度な東風21を輸入しているが、それはまだ公開されてはいない。

 サウジアラビアは、オバマ政権によるイランとの対話に重大な懸念を抱いている。チャック・ヘーゲル国防長官は、今年5月の湾岸協力会議で「アメリカがペルシア湾岸諸国との安全保障上の関係を犠牲にすることはない」と言ってアラブ同盟諸国を宥めねばならなかった。アメリカの安全保障の傘が信頼性を失っているように思われては、サウジアラビアが中国に接近しても不思議はなく、中国もそこから石油を輸入している。しかし中国は、サウジアラビアとイランの地政学的あるいは宗教的な対立に本気で関わる気があるのか? そうした問題を抱えながらも、中国は石油輸出の得意先として好感を持たれながら危険な事態の責任を全面的にアメリカに担ってもらい、そして一部をイギリスやフランスに担ってもらえるような立場にはない。中国には、1960年代から80年代の日本が当然視していたようなことはできないのである。中国は自分だけでこの地域のパワー・ゲームに関わり、影響力の拡大と石油供給の確保を目指さねばならない。武器輸出はこうした目的のために重要な政策なのである。(つづく)
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