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2014-05-15 06:45

憲法解釈先延ばしを狙う山口・公明代表

杉浦 正章  政治評論家
 5月14日夜、BS日テレの「深層NEWS」に出演した公明党代表・山口那津男の1時間にわたる発言を逐一分析したが、武力攻撃に至らない侵害に対処する「グレーゾーン」事態では、条件をつけながらも前向きに対応する姿勢が鮮明になった。しかし、集団的自衛権の行使容認に向けては依然慎重な姿勢を崩さなかった。発言から類推すると、山口はまず日本を取り巻く安保環境の激変を理解しておらず、従来の憲法解釈に固執して差し迫った国民の安全、国家の存立への危機感に欠ける。しきりに連立の自公合意文書に集団的自衛権問題が含まれていないことを強調するが、自民党が同問題を公約に掲げて衆参で圧勝したことが連立の基盤であることなどは忘却の彼方だ。

 まず、グレーゾーンを政府が個別的自衛権に絡む問題として先行処理しようとしていることについて、山口は「個別的自衛権でなく、警察権で対処出来る」と前提を置きながらも、前向き対処の姿勢を打ち出した。中国の武装漁民が尖閣を占拠したようなケースについて「自衛隊は本来自衛権を行使する組織だが、治安出動か海上警備行動など警察権を使う場合もある。自衛権を使う話ではないから、これまでの憲法解釈の範囲内で議論でき、入りやすい」と賛意を示した。加えて「武力組織が出れば武力組織で対抗されることになる」と戦争に発展することへの危惧を指摘したが、グレーゾーン問題の本質を理解していない。中国の漁民には軍事訓練を受けた組織があり、山口は、これが尖閣を占拠した場合は、紛れもなく「中国の国家意思が働いており、準戦時下となる」ことが理解できていない。匕首(あいくち)で腹を刺されても、まだけんかではないといっているようなものだ。しかし、その思惑は「引き延ばし作戦」の一環であるにせよ、まずグレーゾーンの処理で一致すれば、政府・自民党にとって集団的自衛権の行使への“呼び水”になることは確かだ。総じてグレーゾーンに関する山口の発言は、テレビにかじりついている創価学会婦人部を納得させるための説得材料でもあるように見える。

 その一方で、集団的自衛権の行使については意固地なまでの慎重姿勢だ。まず解釈改憲について「政府の長年の考えを急に変えることは良いことではない。これまでの理論的体系とずれていれば、政府自身が信頼を失う」と強調した。また「過去に若干の変更をした例はゼロではないが、換骨奪胎のような解釈変更を簡単に認めるようなことはない」と、安倍の方針を「換骨奪胎」と位置づけた。しかし、ここでも山口は理路整然と間違っている。1946年の憲法公布後の政府の憲法解釈は「一切の自衛権を保有できない」とするものであったが、50年の朝鮮戦争勃発と東西冷戦構造の顕在化で54年に吉田内閣が「自衛のための必要最小限の自衛権を認める」方向に180度の大転換をしたことを理解していない。憲法が否定した戦力を保持したのだから、これこそ換骨奪胎の先祖であり、これに比べれば集団的自衛権などは普通の国家が所有する権利のささやかなる行使にすぎない。

 山口は、焦点の並走する米艦船への攻撃に反撃することを個別的自衛権で対応できるとする持論を繰り返したが、戦争というのはあらゆる策略が前提にあり、平時の“想定”が及ばないことばかりである。山口は、敵に間隙を縫って攻撃させないためには個別的自衛権だけでなく集団的自衛権の行使を抑止力への車の両輪として備えておくことの重要さを理解すべきである。さらに山口は「自衛隊が外国の人を殺傷し、自衛隊にも犠牲者が出る事への覚悟を国民が共有し、容認する状況に至っていない」と強調するが、これこそ創価学会婦人部の主張の受け売りのようである。はっきり言って、古来「百年兵を養うは、一日これを用いんがため」である。国民が殺傷され、タンカーが撃沈され、尖閣が占拠されるような「戦時」に、悠長かつ能天気な人道論など展開できるものだろうか。平和ぼけ傾向の国民もこのような状況を目の辺りにすれば、一気に反撃への機運が盛りあがるが、それを待っていては手遅れであることを理解すべきである。国民の変化を待っていないで、それを先導するのが真の「政治」だ。もう少し平時の抑止力の必要性について勉強すべきである。要するに山口理論は、憲法の従来解釈が生き残って、日本存立の基盤が崩壊してもよいということになる。そこには絶対平和主義の一宗教団体の意向を尊重して、これが中国や北朝鮮にも通用するという甘さだけが存在する。今からでも遅くない。改心して出直すべきである。それにつけても、この山口の重要発言をマスコミはろくろく取り上げないが、深夜であり、締め切り間際での処理能力に問題があるのではないか。実に怠慢である。
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