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2014-05-07 01:20

(連載2)カルザイ政権後のアフガニスタンとアメリカ

河村 洋  外交評論家
 非常に驚くべきことに、キンジンガー氏は「アメリカ国民の90%はカルザイ氏がこれから1か月余りでアフガニスタンの大統領職を退任することを知らない」と語った。しかし、幸運にも第二次投票で大統領の座を争うアブドラ氏もガニ氏も米国との治安協力ついては、カルザイ氏より積極的である。ジョーンズ氏は「アル・カイダその他のテロリスト達は、アフガニスタンとパキスタンの国境地帯では依然として活発で、そこを根城にアメリカ、ヨーロッパ、インドを攻撃することができる。またジハード主義者達はアメリカの撤退を自分達の勝利だと解釈しかねない。よってアメリカとNATO同盟諸国は、充分な兵力を留めねばならない」という。しかし、オバマ政権は4月22日に、アメリカ軍の継続駐留規模は1万人どころか5千人にも満たないものになると示唆した。オバマ大統領が厭戦気運に浸る国民に迎合しようと望むなら、それは彼がイラクで犯したような致命的な誤りとなって跳ね返るだろう。5月1日に選挙が行なわれたイラクでは現在、シーア派民兵と「イラク・レバントのイスラム国」(ISIL)の間の宗派間緊張が高まっているが、撤退したアメリカにはそうした紛争を調停するだけの影響力はもはやない。

 カルザイ政権後のアフガニスタンの治安について語るためには、近隣諸国の情勢も考慮する必要がある。ケーガン氏は「アフガニスタン近隣には、ロシア、中国、インド、パキスタンそしてイランといった核保有国および潜在的核保有国が並んでおり、欧米の不用意な撤退によって力の真空が生じてしまえば、インドがジハード主義者との戦いのために介入しかねず、そうなるとアフガニスタンはカシミールのようにインドとパキスタンの衝突の場と化してしまう」と述べている。さらに警戒すべきことは、イランが2014年以降のアフガニスタンでの影響力の拡大を模索していることだ。イランのハッサン・ロウハニ大統領は3月28日にカーブルを訪問してノウルーズ(ペルシア暦の正月)を祝った際に、「この占領国に留まる外国軍は撤退すべきだ」と訴えた。

 ロシアと中国は中央アジアでの地政学的観点からアフガニスタンでの欧米のプレゼンスを好ましいとは思っていない。しかし両国ともイスラム過激派を恐れているので、アフガニスタンと近隣諸国の安定は必要だと思っている。ロシアは、ブッシュ政権期より中央アジアのアメリカ空軍基地の存在を自国の勢力圏への侵入と見なしてきた。アフガニスタン北部と国境を接する3ヶ国にも問題はある。タジキスタンは親露色が濃すぎるし、ウズベキスタンには深刻な人権問題があり、トルクメニスタンは永世中立国である。中国は、アメリカがアフガニスタンと中央アジアで強固なプレゼンスを築くことにより、自国への包囲網を築くだけでなく、ウイグルの自由への刺激を強めることを懸念している。中国はイスラム教徒の決起による脅威とアメリカが主導する自由が突きつける挑戦に対し、どのようなバランスをとって対処するのだろうか?

 アメリカが費用削減、現地の政治改革への近視眼的な幻滅、戦争への無関心からゼロ・オプションに走るようなことは間違ってもあってはならない。カルザイ氏の影響力は残るであろうが、アフガニスタン国民はアメリカとの治安協力が自分達の将来にとってどれほど重要かは、よくわかっている。二国間の観点とともに近隣諸国の戦略的動向にも注意を払う必要がある。これらの国々はアフガニスタンおよび中央アジアでのアメリカのプレゼンスを必ずしも好ましくは思っていないが、地域安全保障という公共財を提供できるのはアメリカだけであることも知っている。オバマ大統領は今年4月の東アジア歴訪でアジア重視政策を再確認したが、中東からの軽率な撤退は決してその目的に合致する行動とはならないであろう。アメリカは超大国として、カルザイ政権後のアフガニスタンが安定した民主主義への道を歩み、世界が安全になるための責務を果たさねばならない。(おわり)
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