国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「百家争鳴」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2014-04-12 19:08

消費税率10%再引き上げは、朝三暮四の愚

田村 秀男  ジャーナリスト
 消費税率8%ショックで景気は一気に下降することが確実だが、麻生太郎財務相の公共事業前倒し策を聞いて、笑ってしまった。何だ、日本経済というのは「朝三暮四」の猿か、と。朝三暮四とは中国の故事で、予算が乏しくなった猿の飼い主が餌の量を減らそうとたくらみ、「餌を朝に3、夕方に4やるがどうか」と言うと、猿が少ないと怒る。そこであるじは、「じゃあ、朝に4、夕方3でどうだ」と言うと、猿は大いに喜んだという。さて、財務省は公共工事などの予算を9月末までに6割以上執行するよう、各省庁に指示している。景気の落ち込みを防ぐのが表向きの理由だが、麻生財務相は「7~9月期に(景気の上向きを示す)数字が出るような結果にしたい」と本音を隠さない。

 7~9月期の「数字」は、安倍首相が来年10月からの消費税率追加引き上げを判断する際の目安となる。公共事業に集中発注で夏ごろの景気が勢いづけば、財務省の思惑通り、安倍晋三首相は来年10月からの消費税率10%実施を年末までに決定することになる。しかし、経済は消費者が主役である。中国故事の猿のように簡単に騙されると思ったら大間違いである。まず、4月以降の経済だが、家計消費は増税前の駆け込み需要の反動減を経て、7月以降回復するかどうか疑わしい。消費者心理の代表的データである内閣府発表の消費者態度指数を見ればよい。ゴールドマン・サックスの日本経済アナリスト・リポートによると、雇用、賃金、株価と消費者物価動向の4大要因に左右されるが、最近では物価上昇による悪化が最大のマイナス要因だという。
 
 春闘による賃上げ率は全産業平均で1%に遠く及ばない。消費税増税に伴う物価上昇を含めた予想インフレ率3%以上を大きく下回るし、「株価の鈍化ないし、消費増税後の経済下振れで雇用環境が悪化すると、消費者マインドはさらに悪化する可能性がある」(上記リポートから)。最近の消費者態度指数推移を1997年4月の消費増税時と比較してみると、増税決定後から増税実施前まで、指数は急速に落ち込んだ点では今の増税局面と重なる。当時、増税実施後は若干の改善がみられたものの、9月以降は再び悪化し、翌年からはデフレ不況に突入した。消費者心理が弱くなった局面で、アジア通貨危機や山一証券の経営破綻が重なったことも響いたのだろうが、今回は上記の国内要因に加えて中国のバブル崩壊懸念など海外にも不安材料は多い。

 前回の消費税増税時、緊縮財政で回復しかけていた景気を圧殺した。今回、大型補正を合わせた15カ月予算ベースでみると、来年度の公共事業予算は今年度を3兆円程度も下回る緊縮だ。前倒し、集中発注というカンフル注射での景況はしょせん、つかの間でしかない。簡単な算術計算でわかることなのに、主流派メディアのだれも指摘しないのは、異常というしかない。
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『百家争鳴』から他のe-論壇『百花斉放』または『議論百出』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
東アジア共同体評議会